この想いが届かなくても、君だけを好きでいさせて。
「なんでだよ、なんで稔が……」

それが、俊介がこぼした初めての弱音だった。

つい数分前まであんなに気丈に、そして冷静に振舞っていたのに、心の中は私と同じように真っ暗だったのかもしれない。

ふたりで涙していると、今まで誰もいなかった待合室に人が入ってきて、俊介は私の腕を引きすぐにそこを飛び出した。

そして人気のない建物の陰で私を強く抱きしめた。


「俊介……」
「稔は死なない。死なせるかよ」


私は彼の腕の中で何度もうなずく。

死ぬわけがない。
稔はきっと『心配かけてごめん』と笑顔で戻ってくる。



それから三日。

無情にも稔の腫瘍が、医師の当初の目論見通りの“びまん性正中グリオーマ”という治癒の難しい脳腫瘍であることが確定した。

俊介と一緒にネットで情報収集をし、もしかしたらこれかもと覚悟はしていたものの、おじさんからはっきり聞いたときは、流れる涙を抑えきれなかった。
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