この想いが届かなくても、君だけを好きでいさせて。
本人に告知はされていないけど、ついこの前まで普通の生活が送れていたんだから、誰だって落ち込む。


動けない稔が想像できない上に、脳腫瘍のことを聞いたので、会うのが怖くないわけじゃない。

今はまだ倒れる前の元気な姿の印象が強い。

でも、彼に早く会いたい。
稔の顔を見て安心したい。

そして『一緒に頑張ろう』と伝えたい。




翌日はあいにくの雨だった。
グラウンドが使えないときの放課後の部活は、特別棟の廊下で筋トレと決まっている。

腹筋をはじめとして、スクワットなどを黙々とこなしていく部員たち。

だけど、基礎トレーニングというのは楽しいものではなく、皆手を抜きがちだ。

そんな中でただひとり、俊介が頑張りをみせる。


額に汗をにじませ、「はっはっ」といつも以上に息を切らせながら、限界まで挑戦する姿は、稔にエールを送っているように見えた。


「西崎。糸井の調子はどうなんだ?」


顧問の先生が尋ねてくるものの、顔がこわばる。

どうやら学校には容態が思わしくないということしか伝えられていないらしいけど、私が伝えるべきじゃない。
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