この想いが届かなくても、君だけを好きでいさせて。
絶対に稔の前では泣かない。
稔が不安になるようなことは、絶対にしない。

俊介の言葉を遮ると、彼は口元を緩めうなずいてくれた。

八階の病室の前に立つと、緊張がピークに達し息がうまく吸えなくなる。

それに気づいた俊介は、私の背中をポンポンと叩いてくれた。

彼に視線を合わせて『心の準備が整いました』とうなずいて合図を送ると、俊介がドアを開けた。


「稔。来たぞ」


開口一番、おどけたような声を出す俊介は、満面の笑みを浮かべている。


「久しぶり」


だから私も笑顔で続いた。

私たちがベッドの横まで行くと、稔は笑みを浮かべる。

点滴につながれているものの、倒れる前より顔色がよく、回復しているかのように見える。
けれども右目は相変わらずだ。

誤診じゃないのかな。このまま回復して、退院できないのかな。


「来てくれたんだ。悪いな」
「お前さぁ、俺たちがそんなに薄情なヤツだと思ってたのかよ?」
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