この想いが届かなくても、君だけを好きでいさせて。
俊介はそんなことを口にしながら、私の前にイスを出してくれたので彼と並んで座る。


「稔。おばさんは?」
「今、着替えを取りに帰ってる」


私が尋ねるとハキハキとした返事があった。

痙攣して倒れた稔がここまで元に戻っていることに、感動すら覚える。

私たちの稔が戻ってきた。頭に爆弾を抱えているなんて、どうしても信じられない。


「そっか。言ってくれれば持ってくるのに」
「里穂。稔のパンツに興味あるのか?」
「はっ、なに言ってるのよ!」


いつもの調子で私をからかう俊介の腕をドンと叩くと、稔が微かな笑い声を上げたので胸が熱くなる。

この時間を失いたくない。


「なんかさ、しばらく入院みたいで。なにが悪いのかまだよくわからないんだって。早く練習に戻らないと、俊介においてかれるのに」

「おぉ。これはチャンスだ」


俊介は即座に反応したが、私は一瞬ひるんでしまった。

自分の病気についてまた知らない稔に、動揺がバレないようにしないといけないのに。
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