この想いが届かなくても、君だけを好きでいさせて。
私より先に俊介が病室に飛び込んでいく。
するとなにやらガシャンという物音が聞こえてきて、私も続いた。


「稔、どうした? 落ち着け」
「うるさい。出ていけ!」


俊介が話しかけても、稔は顔を真っ赤にして怒り狂っている。

さっきの音は点滴をかけてあったスタンドが倒れた音のようだ。


興奮する稔を、白衣を着た40代くらいの男性医師と同じく男性の研修医がふたり。
そして女性看護師の4人で押さえている。

その4人をもはねのけそうな強い力で暴れる稔は、ボロボロと涙まで流している。

彼の足元にはおじさんと俊介が立ち、顔をゆがめていた。


「おばさん……」


私はその一歩うしろで立ちつくしているおばさんの横に行き、顔をくしゃくしゃにして泣いているおばさんの様子をうかがう。


もしかして、病気のことを伝えたの?


それからすぐに、さっき飛び出していった看護師さんが注射を持って現れた。


「やめろ! そんなもの意味がないだろ。やめてくれ!」


稔の悲痛な叫びに胸が痛む。
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