この想いが届かなくても、君だけを好きでいさせて。
「動かないように押さえて」


主治医が他の医師たちに指示を出し鎮静剤を点滴の管から入れ始めた。


「やめろって言ってんだろ!」


いつも穏やかな稔が、こんなに暴れ叫んでいる。

顔を真っ赤にしながら拒否し続ける彼を見ているのがいたたまれず、涙がこらえきれない。


注射の液が彼の体に吸い込まれてからほどなくして、稔はストンと眠りに落ちていった。


「これでしばらくは眠ると思います。なにかあったらすぐにナースコールを。私たちも頻繁に顔を出すようにします」
「すみません。ありがとうございました」


稔の状態を確認してから病室を去っていく医師に頭を下げたおじさんは、唇がちぎれそうなほど噛みしめていた。


「俊介くん、里穂ちゃん、せっかく来てくれたのにごめんね」


おじさんは私たちのことを気遣ってくれるけれど、それより……。


「なにがあったんですか?」


俊介が尋ねてくれた。


「これから放射線治療をするのに、まったく病状を説明せずというわけにはいかなくてね……」


やはり告知したんだ。
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