この想いが届かなくても、君だけを好きでいさせて。
マネージャーの私が聞くべきだったのに、俊介に先を越された。

稔は昨日のハードルの練習で、珍しく何度もハードルを引っかけ、練習の最後のほうには派手に転んでしまった。

しかもそのときは、ハードルを跳び終えたあとの直線での転倒で、そんなことは初めてだったので驚いた。


「あぁ、膝をすりむいただけだよ。なんだろうな。ちょっと足に違和感があって。疲労がたまっているのかもしれないね」


たしかに毎日厳しいトレーニングの連続なので、筋肉も疲労してくる。
足がつってしまう選手もいる。


「少し休んだら? それとも病院行く?」


私が尋ねると彼は首を振る。


「平気だよ。もし今日走ってみておかしかったら、考える」
「わかった。無理しないでね」


そう声をかけると、彼はにっこり笑ってうなずく。

学校までは電車で三十五分。

この辺りでは一番乗客が多い路線のせいで、いつも満員。
小さくて人の壁に囲まれてしまう私には苦痛の時間だ。
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