この想いが届かなくても、君だけを好きでいさせて。
学校近くの駅のホームに降りた瞬間ポツリと小さな声で漏らすと、俊介が私の背に手を当てさする。

これは小さな頃からの習慣だ。
どちらかが咳き込んだりしたときは必ず背中をさすって慰めていた。

だけど、小さい頃とは違う。
こんなふうに触れられるとドキッとする。


「里穂、平気?」


一方稔は、顔を覗き込んでくる。


「うん」


照れくさくて頬が赤く染まっていないか気になりながらも返事をした。

大丈夫だと伝えたのに、俊介は私の背中を押し、同じ高校の生徒がなだれ込む混雑した出口とは別の出口を目指しだす。


「どこ行くの?」


この出口から出たら歩道橋を渡らないといけないので大回りになるけど。


「あっちは人が多いから」


もしかして気分が悪くなった私を気遣って、人ごみから離してくれようとしているの?


「でも……」
「口ごたえするな。足腰のへなちょこなマネを鍛え上げてやるんだ」
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