あやかし食堂の思い出料理帖〜過去に戻れる噂の老舗『白露庵』〜
あおいは少し自嘲気味に話す。
「そうなの。もう何年も、こんな感じ。私が生まれた時、高校生になるまでは生きられないでしょうって言われて、両親も色々覚悟したみたいなの。初めてそれを知った時は、私も絶望したわ。でもそうこう言いながら、私十七才になっちゃった。普通に高校に行ってたら、もう三年生よ。こんな年になるまでしぶとく生きてるんだから、不思議よね」
愛梨は彼女を気遣うように問いかけた。
「あの、具合……すごく悪いんですか?」
「ううん、最近はかなり安定しているのよ。安定しているから、一時帰宅の許可も出たわけだし」
「そうなんですか」
「帰宅出来る日数も、だんだん伸びているの。だから、このまま安定していれば、そのうち退院も出来るようになるんじゃないかって」
朗らかにそう話していたが、あおいは俯いて付け加える。
「とはいえ手術を受けないと、病気が自然に治ることはないから、根本的な解決にはならないんだけどね」
気持ちを切り替えるように、あおいはぱっと明るい表情を作る。
「それに今日は昭ちゃん……昭平君ていう、幼なじみが会いに来てくれる日なの。毎週水曜日と土曜日は、昭ちゃんが必ず見舞いに来てくれるんです」
「毎週ですか? すごいですね」
「そうなの。学校が早い日や長期の休みの時は、それ以上来てくれるし。無理しないでって言ってるんだけど。私が初めて入院した、小学生の頃からずっとそうなの」
心の底から嬉しそうに語るあおいの姿に、愛梨の表情もつられてやわらかくなる。
「昭平さんは、あおいさんの恋人なんですか?」