たった7日間で恋人になる方法
『ちょっと、何で笑うのよ?』
『ああ、ごめん…だって萌ったら、何か可愛くて』
『馬鹿にしてる?』
『してない、してない』
私が本気でムッとすると、笑いを堪えながら、宥めるように謝ってくる。
『ごめんって…それに、さっきの質問の答えだけど、”彼”とは、まだ付き合ってはいないよ』
『…まだ?』
『リアルな大人の恋愛は、バーチャルな世界よりちょっと難しいの』
『ほら、また馬鹿にしてる!』
頬を膨らませて抗議すると、また笑われた。
確かに、バーチャルな恋愛しかしてこなかった私は、恋愛偏差値も低く、教科書に載っているような単純明快な恋愛しか知らないのかもしれない。
美園の言うように、現実の恋愛には、もっとどうすることもできない事情や目に見えない裏の感情なんかが入り混じってるということなのか…。
美園はひとしきり笑うと、壁掛けの時計を一瞥して『さて、仕事に戻らなきゃ』と出口に向かう。
『萌』
ブレイクゾーンを出る直前にこちらを振り返る。
『ん?』
『あんたも、やっぱりリアルな恋愛しなさいよ?』
『何よ、急に』
『悪くないわよ?…”好きな人”がいるって』
そういうと、カップを持ってない手を、頭上でひらひらさせて、自分の席に戻っていく。
美園の見たことの無い程の幸せそうな笑顔に、同性でありながら少しドキリとした。
恋愛に関しては、落第点に違いない私にもわかるほど、それはわかりやすく、明らかに誰かに恋してる、女の顔。
”好きな人”
そう問われたら、真っ先に浮かぶのは”琉星”のはずなのに、咄嗟に違う人物が頭に浮かんで、慌てて頭の中から書き消した。
そんなことあるはずがない。
私の好きな人は、この世でたった一人”小早川琉星”だけなのだから…。