たった7日間で恋人になる方法
だって、本当に仕事かもしれないし…それに、そもそも拓真君は、外見も体格的にも普通の男性と同じなのだから、私が心配することなんて無いのかもしれない。

万が一女性に迫られたとしても、抵抗すれば、逃げることぐらいできるよね。

そう思い、声をかけることを躊躇っていると、扉にある摺りガラスの向こう側に、人の影が薄っすら揺れ動く。

…拓真君!?

思わず、扉に耳を寄せ、中の様子を伺う。

『…から……ね、…でしょう?…』
『…い、やめ…』

声を潜めて話す二人の会話が、ところどころ聞こえてくる。

コトリと、何かが動いた音。

急に無音になった室内と、微かに聞こえる衣擦れの音に、不安は高まり、思わず存外大きな声音で名前を呼んでしまう。

『とッ、時枝君?』

シンとした空間に自分の声だけが、響く。

『時枝君、中にいるの?』

心臓がドキドキと早音を打ち、その音が聞こえそうなくらい静かだった。

返事はないものの、部屋の中で何か動きがある気配がして、しばらくすると、扉の鍵がカチャリと解かれた。

ゆっくり廻されたドアノブによって扉が開き、全く乱れた様子一つない、入澤さんが、スッと出てきた。

『あら…えっと?』
『あ…あの、お疲れ様です、総務の森野です』

そういうと、余裕の笑みで『お疲れ様、森野さん』と微笑まれる。

『彼なら中にいるわよ、ちょっと必要な資料があってね、探すのを手伝ってもらったの、ごめんなさいね』

聞いてもいないのに、丁寧に答えると、じゃあと高いヒールを鳴らして、颯爽と立ち去っていく。

確か彼女は私より2つ程年上のはずだけれど、美園とはまた違った妖艶な美しさで、社内の男性陣が翻弄されているのも、納得の美貌だった。
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