たった7日間で恋人になる方法
『俺は去年の3月まで、エグゼクティブ部門の秘書課に在籍してた、”如月拓真”というのが本当の名前だ。入社当初は営業3課に配属したんだが、数カ月もしないうちに、当時専務になりたてだった杉崎さんに引っ張られて、彼の専属秘書を任されていた』
『営業から…秘書課?』
業務上、営業課には何度も足を運んでいるにも拘らず、拓真君の存在を覚えていないということは、相当早い段階での内部異動だったことが伺える。
『ああ、正直驚いたよ。まだ一年目で大して仕事の成果も上げてないうちに、なんで自分が…って。本来なら、適当に理由をつけて断ることもできたのかもしれないが、上司の後押しもあって、俺はそれを受け入れることにしたんだ。あの人には、何かこう、人を惹きつけるものがある…もっと本音をいえば、俺は杉崎専務の人徳に興味があったんだ』
そう話す拓真君に、不覚にも頷いてしまった。
確かに先日、専務室で会った杉崎専務を思い起こし、あの力強い眼に、女性だけではなく、男性さえも惹かれてしまうのは、何となくわかる気がした。
杉崎専務には、そういう何かオーラのようなものがある気がする。
『結局、専務の仕事の勧め方や交渉力は非常に勉強になったし、そもそも俺自身が”秘書”という職務が合っていたのか、その重責や仕事の奥深さに、いつの間にか、自らドップリ嵌っていったんだ』
そう満足そうに話す拓真君を見ていたら、数年前に会社の式典で専務の横に控えていた秘書らしき男性を思い出した。
杉崎専務のインパクトが強すぎで、顔も思い出せないけど、つまりあの時の彼が、拓真君だったということなのだろう。