たった7日間で恋人になる方法

『9月に入って、いい加減フリーターのような生活にうんざりしていた頃、俺は杉崎専務に呼び出された。てっきり次のPJが立ち上がった話だと思っていたんだが…全く違った』

一旦言葉を切り、一呼吸してから、その先を続ける。

『唐突に、会社に戻るように言われたんだ…なんでも、新しい秘書が思うように育たないとかで、どうしてもサポートが欲しいからと』

先日会ったばかりの、今の専務秘書である榊さんが思い浮かんだ。

秘書という業務の奥深さまで知り得ない私には、彼女の知的で魅惑的な外見だけで、充分役に立っているように見えたけれど、仕事となると、やはりそれだけでは足りないものなのだろうか。

『でも、9月って言ったら、まだ半年も経ってない頃じゃ…』
『ああ、さすがにシレっと戻るには早すぎる。だから専務には、職場には戻らず遠隔的なサポートも提案したんだが、いろいろ身近でやり取りできた方が良いからと譲らない…で、苦肉の策として、専務からこれを渡されたんだ』

拓真君は、べットサイドの引き出しの一つから、見覚えのある少し長めの野暮ったいカツラと、顔の大半が隠れてしまう程の分厚い黒縁眼鏡を取り出すと、それをラックの上に並べて見せる。

『これ…』
『戻るにしても、当然俺だとバレるのはマズイらしい』
『だからって、変装って…』
『自分も最初は冗談かと思ったが、専務は本気だった…確かに、自分で言うのもだけど、この容姿だし、身長もあるから、目立たないようにするにはこうするしかない。当然、名前も母方の旧姓に変えて、”如月拓真”を知ってる人間が多い上層部には極力近づかないように、一番離れた部署(総務課)に配属されたんだ』
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