たった7日間で恋人になる方法

持っていた冊子が無くなり、行き場の無くなった手は、緊張で震えているのを隠すように両手を合わせてぎゅと握りしめた。

『正直、最初は厄介なことになったって思ってた…たった一週間とはいえ、俺の方は素性がバレたらマズいからね。でも、君は俺の心配を他所に、どんどん俺に近づいてきた』
『それは…だって、恋人のふりしなきゃだから』
『そう言う意味の”近づく”じゃないんだけどね…いや、ある意味その為に、一生懸命自分に慣れようとしてくれている萌が可愛すぎて、このまま手放すのが惜しくなったんだ、だから…』
『ちょ、ちょっと待って!』
『ん?』
『そういうのって普通、リアルな世界じゃ言わないものでしょ』

恥ずかしさのあまり、拓真君の言葉を遮ってしまった。

だって、こんなことは現実(リアル)には有り得ないから、私のような女性はゲーム(バーチャル)の世界に幻想を託すのだから。

『リアルとかバーチャルとか、関係ないだろ』

拓真君は、困ったようにポツリと言うと、一旦言葉を噤み、諭すように続ける。

『その証拠に、いつだったか萌に教えてもらった、あの恋愛ゲーム、やってみて俺は本気で奴に嫉妬した』
『奴?…って、琉星のこと?』
『ああ、俺とは手さえまともに繋げないくせに、アイツとは簡単に旅行まで…』
『えっ!?拓真君、もうそんなとこまで、行ったの?』

拓真君の言う”旅行”とは、ゲーム中で何度かデートを重ねた後、初めて一緒に朝まで過ごした温泉旅行のことだ。

たった一晩でそこまで進むなんて、相当うまく選択肢を選ばなきゃ行けないはずなのに、その”神ルート”を独自で導き出すなんて。

この期に及んで、場違いにも妙なことに感心していると、不意を突いてまた一歩近づかれ、ドキリと身を強張らせた。
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