たった7日間で恋人になる方法
『あれ?森野さん、もう行くの?』
『うん、ちょっとね』

昼休み、残り30分を過ぎた頃、ランチ後の雑談で盛り上がる女子社員の輪から抜け出し、廊下に出てエレベーターで階下に降りる。

狭いエレベーターの中で、何気なく弁当箱を入れているミニトートバックの中に入ってる、大事な茶封筒を確認。

今から自らが起こす行動に、次第に緊張感が高まり、いつしか心臓がバクバクと音を立て始めた。

”時枝君…来てくれてるかな?”

昼休みの前に、誰にも気づかれずに、彼に渡した小さなメモには、一言「折り入って相談したいことがあります」とだけ書いた。

彼に断る間を与えないために、12時になる直前に渡し、自分はさっさと、彼の近づけない(であろう)女子の集団に入り込む。

姑息な手段だけれど、ここまで強引に追い詰めなければ、妙に勘繰って、時枝君が逃げ出さないとも限らないから。

エレベーターを地下階で降りると、途端にひんやりとした空気が廊下を張り詰める。

この階は、ビルの空調施設や機械室があるほかに、過去の資料や文書等が保管してある書庫があるだけで、昼休みのこんな時間に利用する人は誰もいない。

聞かれたくない話をするには、持って来いの場所だ。

廊下を書庫とは反対側に進み、じきに突き当たると、その左側にある非常用階段の裏側に廻る。

上階からのわずかな陽光のみで薄暗いその空間に、ひっそり佇む彼の姿を確認し、まずは時間通りに、彼がきちんと来てくれたことに、ホッとした。

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