たった7日間で恋人になる方法

”…これって、そのうち消えちゃうんだよね…”

怪我してできた傷のように、いつか消えてなくなる痕に触れ、矛盾した感情に切なさが募る。

このまま…一週間前の、ただの同僚に、戻らなきゃいけないのだとしたら…。

”この痕が消えるのと同じように、拓真君との記憶もすべて消えてしまえば良いのに”と思う気持ちと、”この痕が、ずっとこのまま残って消えずに、忘れたくない”という気持ち。

どちらも【バーチャルな恋愛】では、簡単にできることが、【現実の恋愛】では、どうあがいてもできないことは、わかっているのに…。

気を抜けば、つい溢れ出そうになる想いを振り払い、気持ちを切り替えるように声に出した。

『仕事…行かなきゃ』

今からなら、一旦自宅に帰っても、充分間に合う。

置いてあった茶封筒は、タクシー代と書かれたものはそのままに、自分が渡した封筒の中身は、この一週間で使った分の金額を残し、”実費分だけは受け取ってください”とメモを残す。

気持ちを残さないためにも、あくまでも事務的な清算という形にしたかったから。

拓真君のマンションから自宅までは、路線電車8つ程の駅区間だったのだけれど、幸いタクシーを使えば、距離的にはそう遠くなかった。

正直、昨日の今日で、何かを理由に休もうかとも思ったけれど、今日逃げたところで、状況は何も変わらない。

それよりも、私が会社を休めばきっと、尚更拓真君が責任を感じてしまう気がして、それが嫌だった。
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