たった7日間で恋人になる方法
今や、社内の誰もが彼に抱く、クールでスタイリッシュなイメージからは、想像もできないだろう姿。
もちろんそこにはボサボサ髪の”時枝君”の面影はなく、毎日ウイッグを着けていた為に短髪にしていた髪も、この2ヶ月でだいぶ伸びた気がする。
うなだれたまま、目の前に曝されたその無防備な髪に、そっと手を触れた。
『髪…伸びたね』
『…ああ、ここ最近切る時間が…って、萌!怒ってない!?』
顔をあげ、こちらの機嫌を伺うように尋ねてくる拓真君が思いのほか可愛く、思わず口元が緩んでしまうと、ホッとしたように、隣の壁にもたれかかる。
『良かった…』
『別に許したわけじゃないからね』
『わかってる…今のは完全に俺が悪かった』
拓真君とリアル(現実)に付き合い始めてから、2ヶ月が経つ。
あれから予告通り、9月の末日付けで同僚の”時枝君”は退社し、翌10月から去年退社した元専務秘書”如月さん”が、再雇用で復帰した。
社内は案の定(と言っていいのか)、一年間しか在籍していなかった時枝君が辞めたことなど、噂の種にもならず、その代わり如月さんの復帰の話は、会社中(主に女性達)にかなりの衝撃を与え、いろんな憶測や噂がかけまくった。
『忙しそうだね』
『ああ、あの人(専務)の要望が、前よりエスカレートしてる。時枝だった頃の方が、まだマシだった』
『でも、榊さんも第二秘書として、そのまま残ってるんでしょ?』
『彼女はお飾りだよ、大して役に立ってない』
『そう…なんだ』
そうは言うけれど、私としては、あんな美人と毎日一緒に仕事しているというのは、さすがに気が気ではない。
『…気になる?』
『べ、別に』
壁に肘をたて、こちらを向くと、わざとらしく聞いてくる。
『実は、彼女に食事に誘われることもある』
『同僚なんだから、そういうこともあるでしょ』
『榊さんだけじゃない、自慢じゃないがここ毎日、結構な数の女性に言い寄られているんだが…?』
今はもう顔の一部を遮る眼鏡もかけず、スッキリと整った顔立ちで、にやりと私の顔を見つめてくる。
何を言わせたいのか、だいたい予想はつくけど、その手には乗るつもりはない。
『知ってる』
『…知ってる?』
『で、全部そっけない態度で返してるんでしょ』
私がサラリと返すと、眉をひそめて、怪訝な顔を示す。
『拓真君、近づく女性にことごとく冷たい態度を取って、ストイックに仕事しすぎてるって、専務が言ってたもの』
『専務が?』
あの日から時々、杉崎専務から社内メールで拓真君の様子などが送られてくるようになったことを告げると、メールの内容よりも、今すぐ専務のアドレスを着信拒否メールに設定するように言われる。