たった7日間で恋人になる方法

定時で上がり、急いで着替えを済ませると、自分が時枝君に指定した場所へ急いで向かう。

毎度遅刻の常習犯である自分も、こちらのお願いで相手の時間を拘束していると思うと、さすがに遅刻はマズい。

いつもより2本も早い電車に乗りこみ、空いた席に座ると一旦乱れた呼吸を整える。

落ち着いて考えてみたら、リアル(現実)の世界で、仕事以外で男性と二人きりで出かけるなんで、わたしにとっては初めてのことかもしれない。

ゲームの中じゃ、何度も経験していることが、現実になると、こうも緊張するなんて…と今更ながらに、気づかされる。

幸い相手は女性には全く興味の無い時枝君なのだから、ここはひとつ、同性と食事に行く感覚で行くしかない。

指定したお店は、職場から少し離れた場所で、ネットで”静か・個室”で検索してヒットしたお店。

自分なりに、落ち着いて作戦会議をしたかったのと、誰にも見つからないようにしなきゃ…と考えて選んだはずなのだけれど、実際にお店に到着して、即座に後悔することになった。

確かに、そこは若者がワイワイ飲むような場所ではなく、静かで落ち着いているけれど、店内全体が薄暗い上に、案内された部屋は穴倉のような小さな個室で、いかにも”恋人仕様”な造り。

これでは、ただでさえ高まっている緊張感を、更に押し上げてしまう。

『ご注文は、お連れ様が、いらっしゃってからで、よろしいですか?』
『は、はい…そのように、あ…いや、そうしてください』

緊張しすぎて、なんと答えたら良いのか分からなくなり、言葉使いまでおかしくなってしまう。

それでも、案内してくれた和服姿の女性店員は、何事もないように丁寧にお辞儀をして、障子の張られた引き戸を閉め、戻っていく。
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