たった7日間で恋人になる方法
間接照明がいくつかあるだけの薄暗い個室に一人残され、先ずは目の前の冷たいお水を一気に飲み干し、深呼吸を一回。
『これも琉星の為だもん、頑張ろう』
自分の置かれた現状を今一度振り返り、昨夜考えた作戦を、今から来る時枝君と協力して実行するしかないのだという事実を、往生際の悪い自分に何度も言い聞かせる。
不安と緊張のために、なぜか無性に琉星に会いたくなり、スマホを取り出してアプリを立ち上げると、画面が表示される前に、入り口の障子扉に影が映り『お連れ様がお着きになりました』と、先ほどの店員の声。
『お疲れ様です、早いですね』
扉が開かれ、現れた時枝君は、見慣れたスーツ姿で室内に入ると、改めて『お待たせしてすみませんでした』と、正面の席に腰を下ろす。
『お疲れ…さま』
一瞬、あれ?…と違和感を感じた。
目の前の時枝君は、髪形も黒縁眼鏡も、ついさっき職場で見た時枝君と何一つ変わらないのだけれど…何だろう?この感覚の違いは…。
『森野さん、まだ何も頼んでいないんですね』
『あ…うん』
『とりあえずビールでいいですか?』
『えっと、私はウーロン茶で…』
今日はさすがに一ミリも酔うわけにはいかず、念のためにアルコールは避けておく。
『じゃ、僕は生ビールで、彼女にはウーロン茶でお願いします』
案内したままその場にいた女性店員にそう告げると、短い返事のあと、障子が閉められ、いよいよ完全なる個室が完成してしまった。