たった7日間で恋人になる方法
『ところで、彼は…』
『彼?』
『昨日君と一緒にいた…名前は何て言ったかな?確か、去年総務に入った子だったような…』
『時枝君…ですか?』
『ああ、そんな名だったか』
『…彼が、何か?』
『いや、君が随分親しそうだったんでね…二人はどういう関係なのかな?って』
自分の顎に手を当てて、含むような笑みで、こちらの様子を伺う。
『時枝君は、ただの同僚です』
『本当に?…それだけ?』
『他に、何があるんですか?変な言い方やめてください…失礼します』
今度は、牧村さんの返答も待たずに、その場から立ち去った。
まだ、始業まで30分以上あるせいか、未だ人気の少ない1階フロアを、社員専用の階段に向けて、足早に歩く。
馬鹿馬鹿しい。
私と拓真君が、どんな風に見えたというのだろう?
私の心には、ずっと恋人の”琉星”がいるし、拓真君とは、あくまでも同僚であり、今や信頼できる現実世界での、唯一の男友達だ。
と、そこまで考えて、ふと一旦、冷静になって考えてみる。
いや…でもコレって、もしかして、牧村さんの目には、私達が、少しはそれらしく”ワケアリ”に見えたのかもしれない。
だとしたら、それはそれで、私達が、より恋人っぽくなってきていると考えれば、良い傾向だと、ポジティブに考えることもできる。
そう思えば、少し気が楽になった。
階段を昇り、一旦更衣室に寄ってから、執務室に向かう。
実は、牧村さんのことなんかより、今はもっと引っかかっていることがあり、思考はいつの間にか、そちらにシフトする。
今朝ここにきて、まだ時間がたっぷりあったので、誰もいない1階ラウンジで何気なく始めた琉星との、バーチャルな世界。
いつもだったら、周りが気にならないほど、その世界に入り込んで、現実さながらに萌まくるのに、何故か今日は、琉星の甘いセリフやシチュエーションに、少しも胸がときめかなった。
しかも、琉星の言葉が牧村さんのセリフと重なり、真実味の無い言葉のように思えてしまうなんて…。
そうだ…これはきっと、ここが職場だったからに決まってる。
非現実的な世界に入り込むには、あまりにも現実感が、ありすぎる場所だったから。
そこまで考えが至った時、ちょうど廊下で出勤してきた何人かの同僚に声をかけられ、思考は停止し、結局このことについては、あまり深く考え無いことにした。