たった7日間で恋人になる方法
『拓真君、ここは疲れを癒してくれる、大切な場所だって言ってました』

『それは大変嬉しい言葉ですね』と、マスター。

それがこのお店の一番のコンセプトですから…と、嬉しそうに語る。

『こういう自分だけの特別な場所って、一つくらいあってもいいですよね』
『ええ…それに、私はそういった場所に連れていらっしゃる方も、その方にとって、やはり特別な存在なのだと、思いますよ?』

マスターは、顔を上げると、何かを含めた笑みを浮かべながら、さっきよりもワントーン低めた声で続ける。

『…実はここだけの話ですが、時枝様もごく稀に、お連れ様がいらっしゃるときもあるにはあるのですが、皆、男性ばかりなものですから…』
『はぁ…でしょうね』
『は?』
『あ、いえ…そうなんですね』

一応、恋人設定らしく、嬉しそうな演技をしてみせる。

おそらくマスター的には、初めて同伴した女性にとっては、喜ばしいことだと思って、話してくださっているのかもしれないけれど、拓真君が同性愛者だという事実を知っている自分にとっては、ある意味、マスターの話はそれを立証するものでしかない。

つまり、ここに連れてくる男性は、拓真君にとって”特別な存在の男性”なのだということを…。

『お、美味そう』

取り分け終えた二つの皿を、マスターがテーブル上に並べていると、不意に自分の左肩に手が置かれ、拓真君が戻ってきた。
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