トラウマの恋
来てしまった。彼のマンション。
変わってなかった。
行くのが怖い。足が進まず
助手席に座ったままのわたしを見かねて
ドアを開けて降ろされ、腕を引かれる。
ずっと沈黙のまま
懐かしくて来たくなかったこの場所に
彼と一緒にいる。
「はい、どうぞ。」
と、玄関から家に入るよう促される。
玄関に立つと
何だか苦しくて涙が出て来た。
駄目だ、止まらない。
苦しくて上手く息ができない。
そんなわたしの姿を見て
手を伸ばした圭斗くんから逃げるように
ドアから出て行ってしまった。
「茅菜!待って!!茅菜!!」
追いかける圭斗くんに捕まって
次は逃げられないように
子どものように抱かれる。
またあの部屋に戻り、
圭斗くんにわたしが落ち着くまで
ずっと抱きしめられていた。
「…ごめんなさい。
もう大丈夫です。帰ります。」
立ち上がると
「行くな!」
「本当に今日は無理です。
帰らせて下さい。
ごめんなさい。」
カバンを持つと
「…送る。」と圭斗くんも立ち上がった。
「大丈夫です。本当に。」
「…ごめん、送らせて。
心配で放っておけない。」
「…分かりました。」
沈黙のまま車に乗り、
わたしの最寄り駅まで送ってもらった。
家まで送ろうとしてくれたけど断った。
今のわたしを見たらきっと何を言っても
無駄だろうと思った圭斗くんは
そのまま駅で降ろして帰って行った。