砂糖よりも甘い君
「そんな事ないよ。みんなとても嬉しそうに買ってくれてる。『美味しい』って言ってくれてたよ」


「なんて優しいお客さん達……っ。正人さんが築き上げてきた信頼関係を失わなくて良かった……っ」


「相変わらず大袈裟だなぁ、紅華ちゃん」


正人さんは私の前に置かれたケーキを見て微笑んだ。


「もうすぐバレンタインがあるでしょ?紅華ちゃんも来てくれた事だし、今年はチョコレートケーキをたくさん作ろうと思ってるんだ」


「チョコレートケーキですか?」


「うん。チョコレートケーキ、ガトーショコラ、ザ・ハトルテ……。たくさんのチョコレート系のケーキを並べたいんだ」


「わあ!凄い!」


「そこで紅華ちゃんにはガトーショコラを作ってもらいたいんだ」


「私なんかが作ってもいいんですか!?」


「当たり前だよ。紅華ちゃんのケーキは凛斗(りんと)も絶賛してるんだから」


『凛斗』という名前にドキッとする。


それから赤くなって俯いた。


名前を聞いただけなのにドキドキするなんて……。


「凛斗ちょっと悔しそうだよ?紅華ちゃん、僕と話す時は普通なのにって」


「も、元々人と話すのは苦手で……。正人さんはなんと言うか……、話しやすいって言うか……」


「そう言ってもらえると嬉しいな。紅華ちゃんとは付き合いが長いから、それもあるんだろうけど」


「……はい」


正人さんが助けてくれたあの日を、私は忘れた事は無い。


いじめられて、人が怖くて、死にたいって思ってた時に正人さんは手を差し伸べてくれた。


『大丈夫?そんなに怯えて……。こっちおいで』


あの日に食べたショートケーキの味は今でも忘れられない。


だから私、堂本紅華(どうもとくれは)はこの吉澤正人さんに一生かけてお礼をすると決めたのだ。

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