みだらな天使
医務室に寝かせたあと、すぐに七海に連絡すると、七海は血相を変えて飛んできた。



「大丈夫そう?奏ちゃん…」




「ああ、ひとまず落ち着いたみたいだ。」




スースーと、一定のリズムの呼吸が聞こえる。




奏の手にそっと触れると、かなり冷えていた。




それを温めるように、自分の両手で包み込む。





…なにがあった?




出会った頃、夜中に寝ながらよく苦しそうな表情を見せていたことを思い出す。




今も…ほら。



苦しそうに顔を歪めて眠っている。




それは紛れもなく、奏が心に傷を負っていることが原因で。




それが、母親に捨てられたことだというのはわかりきっていて。





……ということは、つまり。





「奏…母親に会っちゃったか……?」



冷え切った奏の手を暖めるように握りしめる。




この細い体で、どれほどのストレスをためているのだろう。




…俺は、何のために奏と一緒にいるのだろう。






「…七海、とりあえず帰るわ。家で休ませる。」




「うん…わかった。起きて調子悪そうだったら、病院連れてってあげてね。困ったことあればいつでも連絡してよ?」



「うん、ありがとな。」





起こさないように奏を抱き上げる。




地下の駐車場からタクシーに乗り込み、家に帰った。




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