みだらな天使
あれから10分ほど経過した頃。





朔のお父さんは結局玄関先での会話だけで帰って行き、再び静寂の時間が訪れた。





「朔…?」




ソファーに腰をかけたまま何も言わない朔の隣に腰を下ろし、その身体を優しく抱きしめる。





そんな私を抱きしめ返してくれる朔だけど…




抱きしめる腕に、いつものような力が入っていなかった。





「…ごめんな、嫌な思いさせて。あれが…俺の父親。」




「…朔からご両親の話、聞いたことないね。」





そう呟くと、ようやく朔が私を抱きしめる力が強くなった。






「…奏は俺の前からいなくならないよな?」






その言葉が何を意味しているのか。





わからないけれど、私もギュッと朔を抱きしめ、呟いた。






「いなくならないよ。ずっとずっと一緒だよ…」





< 125 / 147 >

この作品をシェア

pagetop