みだらな天使
「……母さんが病気で亡くなった時、親父は母さんの危篤の知らせが入っても、仕事を優先させたんだ。」
しばらくして朔が話してくれた真実。
普段、明るくてそんな素振りを全く見せなかった朔からは想像できないほどの出来事だった。
「俺と七海は必死で親父に連絡した。秘書にも、会社にも連絡した。何とか来てくれって頼み込んだ。だけど…親父は来なかった。」
震える朔の背中を優しく撫でる。
「母さんはずっと親父の名前を呼んで…段々その声が消えていって……。俺も七海も、そんな親父がどうしても許せなかった。」
「朔…」
朔はなんでも出来て、凄いなって思っていたけど…
その努力の裏には、そんな悲しい出来事が隠れていたんだ。
「それから俺も七海も親父に反抗するようになって、二人で岩塚ホールディングスを起業したんだ。」
「そう…だったんだ。」
私と母親の関係とはまた違う、朔とお父さんの関係。
一年前…
朔はどんな気持ちで、私と母の再会を見ていたんだろう。
どんな気持ちで…
…そっか。
同じことをすればいいんだ。
「ね、朔。朔の思ってること…お父さんに伝えてみない?」