みだらな天使
「…俺も同感だ。母さんより仕事を選んだ理由を教えて欲しい。」
朔はこの前よりもいたって冷静だった。
そんな朔と七海さんを交互に見て、お父さんは静かに息を吐いた。
そして、真実を語り出したのだ。
「……少なくともわたしは、お前たちと気持ちは一緒だった。一番に母さんのことを想っていた。」
「嘘よ!だったらなんで…」
涙で言葉が声にならない様子の七海さん。
そんな七海さんを見ながら、お父さんは真相を続けた。
「理由は簡単だ。…それが母さんとの約束だったからだ。」
「母さんとの…約束………?」
朔が自分に言い聞かせるように呟いた。
「そうだ。あれは母さんが亡くなる二週間前のことだった。母さんが突然わたしに言ったのだ。自分に何かあっても、仕事を投げ出すな、と。自分は、仕事をしている私が好きで結婚したのだから…と。」
岩塚家の止まっていた時間が、今…動き出そうとしている。