君と恋をしよう
◇◆◇
翌日、初めてのデートをした。
昨日のうちにメッセージを送った、返信は朝になっていた。
僕がいるホテルの喫茶店で待ち合わせをする事に。
果たして来るか──僕は約束の10分前に下りて、店内に入った。
彼女は、既にいた。
忘れない、色白の肌、緩くカールした髪、桜色の唇……鳶色の瞳は不安そうに揺れている。
「いらっしゃいませ」
「あ、待ち合わせです」
店員は一礼していなくなる、僕は静かに彼女に近づく、彼女はすぐに顔を上げてはっとした。
「あ……」
僕を見つけると素早く立ち上がり一礼する。
「待たせちゃった?」
僕は言って椅子を勧めた。
「いえ、来たばかりです……」
そうは言っても、グラスの氷はなくなってる。
僕の為に出て来た水には、氷は入っているんだから、かなり前に出されたものだろう。
ティーカップの紅茶も、冷めきっているようだ。
「え、と。改めてまして。僕は藤木龍哉(ふじき・たつや)です、35歳だよ」
年齢を言っても彼女は驚かなかった。
「橋倉萌絵(はしくら・もえ)、22歳、です」
新卒だもんな、13歳差か……こりゃやっぱり、男性に対して自信が持てるようになったら解放して上げないとな。
それも早く、だ。
男性に慣れていないと言う彼女と話をしてみる事にした、別に普通に話しているようだった。
確かに目を合わせるのは苦手なようで、相手の目をしっかり見ながら話すのはできないようだ、チラチラとしか目線が合わない。
これでは受付嬢などできないだろうに。
あ、でも僕が話すときは、ちゃんと見ようとしてくれている、こういうとこだな、可愛いと思うのは。
「ごめんね、僕も昨日は大分酔ってたみたいで。昨日はばたんきゅうだったよ」
いえ、嘘です、君の濡れた瞳と唇を思い出して、ムスコを慰めてしまいました、とは当たり前だが言えない。脳内の記憶からも懸命にその行為を削除する。
「私もです、さすがに疲れました」
彼女は本当なんだろうな、その目は嘘は言っていなかった。
それから30分程昨日の式の感想などを言い合って、僕はふと思い出す。
「あ、そうなんだ、僕、しないといけないことがあって」
「なんですか?」
「家探し」
僕は結婚まで実家にいた事を告白した。
「実家に戻る気にもなれなくて。今はホテル暮らしだけど、早く住むとこ見つけないと……もし嫌じゃなかったら探すの付き合ってくれる?」
「え」
「萌絵ちゃんも賃貸でしょ? お知恵を拝借したいな」
彼女は小さく頷いた。
お会計は僕が済ませてホテルを出ると、彼女は財布を出した。