君と恋をしよう
店員に言われた、余計なお世話だぞっ!

「あ、いえ、あの、はい、予備です……」

店員がにこりと去るのを見てから、僕は言った。

「……僕達、恋人とか、夫婦に、見えるのかな?」

肯定まではいかなくても、せめて同調くらいはして欲しかったのに、彼女は赤くなって俯くばかりだ。
家具は三日後に届くと言われたが、家電と一緒に来週届くようにしてもらった。



同じ店で調理道具やリネン類も買った。

「食器は買わなくていいんですか?」
「うん? 前から使ってたのもあるし」

それはさすがに持ち出せた。

「で、でも茶碗とお箸くらいしか……」

いや汁椀とお皿が大小4枚くらいはあったよ。カラトリーも一式。

「そんなに料理もしないよ」

元々実家暮らしが長かった、まともに家事をするようになったのは結婚してからだ。

「きっと殆ど外食で済ますよ」
「そんな……」

彼女はそれきり何も言わなかった。

僕はフライパンとお鍋をひとつずつカートに放り込んだ。

それらを車に詰め込んで新居に戻る。
それらの片付けも彼女は手伝ってくれた。

「調理道具は一回洗いますね」
「ありがとう。助かる」

僕はリネン類を洗面所の棚にしまいながら答えた。

真新しいスポンジに未開封の洗剤をつけて、それらを洗い始める萌絵の後ろ姿をみつめていた。
──いいな、本当に新婚さんみたいだ。

「もうお夕飯の時間ですね、ご飯はどうしますか?」

声に僕はバカな考えを押し出した。

「あ、ああ、食材買ってきてもまだしまえないし」

お湯くらいは沸かせるから、カップラーメンとか? 何か店屋物を頼んでもいいかな……?

「外、行こうか? なに食べたい?」
「なんでもいいです」

彼女は微笑む、「なんでもいいです」の時は本当になんでもいいので、助かる。

「おすすめのお店はある?」
「私もファミレスくらいしか……」

そうだよな、こんな内気な子が、そうそう一人で外食にはいかないだろう。

「あ、でもうちの近所で、入ってみたいお店があったんです、そこでもいいですか?」

そう言って連れて行ってくれたのは、小さなパスタ屋だった。
確かに女の子が好きそうな、ログハウス風のおしゃれな外観をしていた。

メニューを見る萌絵は、珍しくワクワクした様子だった、本当に来たかった店なんだろうと判る。
1時間ほどで食事を終えると、もう外は薄暗かった。

「家まで送ろうか?」
「いえ、近所なので大丈夫です」
「うーん、でも」

僕はわざと空を見上げて言った。

「萌絵ちゃんだけ僕の家を知ってるのは、なんかずるいなあ」
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