君と恋をしよう
ランドマークプラザに入ると意外と人が多かった。離れてしまってはとさりげなく手を繋ごうして、やや後方に手を伸ばして指先が触れたが、それだけでびくりと引っ込められてしまった。
「あ、ごめん。人混みは迷子になるかなと思って。手を繋ぐのもダメ?」
彼女はこくりと頷く。
「いいよ、気にしないで」
僕は微笑む、まるで新しい家に来た仔猫のようで可愛かったから。
プラザで食事をしていると、萌絵があまり観光としていないので、このあたりでもあまりよく知らないと言った。殆ど家と会社の往復くらいで、後は先輩達と食事をするくらいだと言う。
みなとみらいのあたりは何がある訳ではないと思うのだが、一大観光地だ、僕は早速隣のタワーにある展望台に彼女を誘った。
「わあ」
彼女は窓に張り付いた。
「凄い、車も人も小さい!」
「本当だね」
「わあ、あそこはコスモワールドだあ」
「ああ、あとで行ってみる?」
「はい」
にこっと微笑んだ、本当に可愛いな、歳の割には幼い方かも?
「あちらは有名な赤レンガ倉庫ですね、その向こうは山下公園? わあ、観光地が見渡せますねぇ」
「そうだね、あっち側にはスカイツリーも見えるよ」
「本当ですか? すごーい」
僕が指差した方へ、半ば走り出した萌絵は、不意にその足が緩む。
ん?と思っていると。
「……来た事、あるんですね?」
「うん? あるけど」
「奥様と、ですか?」
ん? それって……。
「元奧さんとも来たけど。歴代の彼女とも来たよ」
言うと彼女はひいた。
「歴代……」
何十人もいるニュアンス?
彼女はふいっと顔をそらして、また半ば走るように行ってしまう。
ちょっと怒った顔、それって嫉妬なの?
ひと通り景色を楽しんでから、コスモワールドへ向かった。
遊園地で遊ぶ彼女は本当に子供のようで、まあそうだよな、先々月まで学生だったんだ。僕は何年前に卒業した?ああ、虚しくなる考えるのはやめよう。
ジェットコースターにも乗ったけれど、カーブなどで体が触れてしまう分には気にならないようだ。
だったら、すぐに恐怖症は治るかな?
「萌絵ちゃん、観覧車は乗れる?」
「はい、高いところは平気です」
「うーん? 男と密室で二人きりになるけど」
言われて「あ」と僕の顔を見上げたけれど、
「……藤木さんとなら……大丈夫だと思います……」
小さな声で言った。
「乗ったら降りられないよ?」
彼女は懸命に頭を横になって振った。
「今度、今度って延ばしてたら、いつまで経っても……」
彼女の度胸に感服した。
「じゃあ乗ろうか」
観覧車は少し混んでいた、少し並んでから、僕達はゴンドラに乗り込む。
萌絵とは、はす向かいになる位置に座った。
「……あの」
「ん?」
「どうして、そんなに離れて座るんですか……?」
ん? 真正面に座るのが常套だとは思ってるんだな?
でもさ。
「だって萌絵ちゃん、怖いんでしょ? できるだけ離れてるよ」
僕が言うと、彼女は一瞬驚いて、それから微笑んだ。
「藤木さん、優しいですね」
そうかなあ。
「今までにも、何人かに男性が怖いって話はした事あるんです、あ、それは付き合ってほしいって言われて、無理ってお断りつもりでお伝えしたんですけど……」
彼女ははあ、とため息をついた。