君と恋をしよう
消え入りそうな声で言った。
「やっぱり面倒ですよね、こんな女……」
「そうじゃなくて」
僕の理性が吹き飛びそうだから。
「ほら、僕も離婚したばっかで。その世間体、みたいな」
「私は気にしません」
「萌絵ちゃん、まだ22でしょ? こんなオジサンつかまえなくても」
「私は藤木さんの傍がいいんです!」
はあ──────。
僕は溜息を吐いて、片手で顔を覆った。
「……ご迷惑、ですか?」
「──うん」
視界の端に萌絵の膝が見える、その上で萌絵の拳が握られたのも見えた。
それは、傷ついた、と言っている。
いや、そうじゃなくてね。
「萌絵ちゃん……君は本当に自分の魅力を判ってなさすぎる」
「……えっ!?」
とびきり意外だと言いたげな声。
「本当に──僕の傍がいいだなんて、本気で言ってるの?」
指の間から睨むようにして言った、だって、この手を離したら、にやけた口元が丸見えだ。
「はい」
「それって、十分口説き文句なんだけど」
「え!?」
自分が何を言ったのか、初めて知ったかのような声だった。
「えっ、でも、だって……先日も言いましたけど、本当に、藤木さんの隣は安心すると言うか、こんな風にお話しできる男性って父くらいしかいなくて……」
父。
その言葉に吹き出してしまう。
そうか、父か。
「判った、ごめんごめん」
にやけた口元は、自然と笑顔になれた。
「じゃあ、僕は保護者代わりでお付き合いしよう」
萌絵の顔がぱあっと明るくなった、お付き合いの意味が、判ってるのかなあ。
「とりあえず、週末は会おうか? 少しずつでも手ぐらい繋げるようにななりたいな」
萌絵はこくんっと頷いた。
恥ずかし気に頬を染めている、笑顔のまま窓の外に視線を転じた。
頬が赤いのは、夕日の所為なのか?
嬉しそうな横顔が、とても綺麗だった。