君と恋をしよう
前妻との事
後輩の結婚式に出たのとほぼ同じ頃、僕は離婚した。
妻だった淳美とは、彼女が新人営業マンだった頃からの付き合いだ。
先輩営業マンとうちの社に来た淳美はガチガチに固まっていて、挨拶がやっとくらいだった。
三度目に来た時、先輩社員がいなくなった隙に言われた。
「あの! どうしたらうちの商品を扱ってもらえますか!?」
単刀直入な質問に僕は吹き出した、仮に答えて、その通りに実行されたら買うしかないじゃないか。
「そんなに売れてないの?」
「もっと二つ返事くらいで成立するものだと思ってました! なのに皆さん難しい顔をされて」
「まあ、自分のお金じゃないしさ。それで失敗したら僕の所為だし」
でも僕が話がし易いと思ったのか、それからも度々仕事の相談を受けるようになった、勿論仕事とプライベートは別、それで彼女の営業に簡単に落ちるような事はしない。
やがて、仕事終わりに食事や飲みに行く仲になった。
主に彼女の仕事の愚痴を聞いていた、上昇志向が強く、ゆくゆくは成績トップを目指したい、と言っていた。
「頑張るね」
「私、手を抜くの嫌いなんです」
そんな彼女に、いつしか心を惹かれていた、目標に向かって進む彼女はキラキラしていたからだろう。
しかし成績がトップ争いをするようになると、陰口を叩かれるようになったらしい。
「もおーなんなのよー、人が努力して働いてるのにぃ。「女はいいよな、体って武器があるもんな」ですって! 枕営業なんかしてないのに!」
「それってさ……僕のことかな?」
実際それで彼女の会社との契約が増えた事はないが、やはり立場上、よろしくないと思った。
僕から、正式に付き合おうかと言った。
双方の会社にも伝えた、僕は彼女の会社の担当から外れた。
*
付き合い始めて三年、彼女は立派なアラサーだった。
結婚しようか、と僕から言った。
彼女は喜んでくれた、式は簡単でいいと二人きりで外国で挙げて、二人名義でマンションも買った。
共働きだ。このご時世、そんなに残業もない。
なんとなく家事を分担できた。
朝ご飯は僕が作る、その間に彼女は掃除と洗濯をする。
夕飯は彼女、その間に僕は洗濯物を畳む。
片付けは二人で並んでする事が多かった。
洗いながらさりげなく手に触れる。
「夜は早めに寝ようか」
さらりと誘ってみる、彼女は恥ずかし気に微笑んだ。
「じゃあ、あとはやっとくから、お風呂お先にどうぞ」
まあここまではっきりではなくても、一つのベッドで寝ていれば、なんとなくお互いそんな気分になることはある。