君と恋をしよう
そして渋谷で
それから僕達は毎週末会うようになった。
少しずつ距離が縮まっているのは判る。
毎日する電話は萌絵からかかってくるようになった。
萌絵は敬語で話さなくなった。
少し後ろを歩いていたのが、並んで歩くようになった。
でも僕はもっと欲しい。
君に触れたい、髪に、指に、頬に──唇に。
急いでは駄目だと思うほど、君が欲しくて仕方ない。
***
ふと指輪が目に入る。
別に未練でつけているわけではない、どこかあって当たり前になっていた。
不慣れなアクセサリーにむしろ嬉しさがあったのを思い出す。
でも、もう──。
ネットで指輪の外し方など検索してみる。
むくみか。
手を上げてぶらぶらしてむくみをとって。
食器洗剤で動きを滑らかして。
指を押して空間を作って、関節を、通れば……抜けた!
なんだ、案外簡単に取れるものだったのか。
プラチナの、イニシャル入りの指輪。
改めて見つめてしまう。
結婚と言う契約は紙と金属で交わされた訳ではないけれど。
心が離れれば、何の意味も成さないものだった。
***
ひと月もデートすれば、横浜の主だった観光地は巡り尽くす。
今度はどうする?と言う話になったら、萌絵が渋谷で買い物がしてみたいと言い出した。
テレビで見ていて憧れがあったらしい。
青森から出てきてまだ三ヶ月程、環境に慣れるのに精一杯でまた東京へは出かけていないと言う。
「じゃあ、渋谷で待ち合わせね。一人で渋谷まで行ける?」
「行けるもん! 電車で一本って勉強したから!」
勉強レベルか、可愛いな。
「じゃあ僕は少し遅く家を出るね、萌絵ちゃんはハチ公前で待ってて。ハチ公像、判る?」
「うんっ、調べる!」
そうして当日時間をずらして家を出たが、僕の電車が途中駅で気分が悪くなった乗客を降ろすとの事で10分ほど遅れて発車したので、都合20分ほど萌絵を待たせてしまった。
そして待たされた萌絵はナンパされてしまった訳だが。
まあ、それも経験だよね。
「わあ……」
萌絵が感嘆の声をあげたのは、渋谷のスクランブル交差点。
「テレビで見た光景だぁ……」
僕自身は十数年ぶりくらいかな? 学生の時分はよく来たけど、社会人になれば横浜駅周辺で事足りていた。
「写真……」
スマホを出そうとする萌絵を止める。
「撮るのはやめて、恥ずかしいから」
「え、どうして?」
「観光客じゃないんだから」
「え、でも」
周りでは堂々と撮影している人もいるけどさ。
「今度ね。今度」
「今度?」
「また来よう、その時は覚悟決めておくから」
「覚悟?」
信号が変わった、きょとんとしている萌絵の手を引いた。
人々が一斉に歩き出す。