君と恋をしよう
「彼女とはそんなんじゃないんだよ」
「そんなんって?」
「交際とか、考えてないよ」
「マジっすか!? 勿体無い!」
「勿体無いって」

そりゃ僕だって思うよ、できればモノにしたい。
でも彼女が言ったんだ、父だぞ、父。

「四次会ん時も、結構盛り上がったんすよー! 藤木さんがバツイチって聞いてラッキーと思ったら、よりによってあの大人しそうなモエちゃんをお持ち帰りしたって」
「僕がお持ち帰りした訳じゃ」

そもそも一緒に帰りたいと言ったのは萌絵だ。

「大体、お持ち帰りはしてないぞ、電車が一緒だっただけで」
「え、でも今日手伝いに来たってことは、あれからも会ってるんすよね?」
「そうなんだけど」

僕は視線が泳いだ。僕は半ば恋人気分だけど、実際のところ萌絵はどう思っているのだろう?

「もう! 俺、悔しいからずっと言わなかったっすけど! 実は藤木さんを想ってる女子は多いんすよ!!!」
「へ?」

何の話だ?

「やっぱり気付いてない!」

田代は遠慮もなく、僕の背中を思い切り叩いた。

「なん……!」

「俺もかぁいいー嫁さん捕まえたから白状しますけど! 藤木さんが結婚した時、どんだけの女子から泣き言聞いたと思います!? 藤木さんが離婚するかもって聞いて、俺、女子達に情報流しましたもん!」
「お、お前か……!」

余計なことを! 誰も彼も知ってたぞ!?

「もお、女子達は今か今かと待ち構えてたんですよ! そしたらあのお持ち帰り事件!」
「事件じゃないし、だったら僕は被害者だっ!」

声をかけたのは萌絵だからね!

「女子の恨み言を聞いてる僕の身にもなって下さいよぉ」
「知らないしっ! 大体、今まで何も……!」

女の子にモテた記憶など、皆無に等しい。

「あー藤木さん、可能性のない男に分類されてるんすよ。なんせ若くして出世しちゃって、お堅くて審美眼も厳しい人なんだろうって。んで随分長いこと他社の赤川女史とよろしくやってたし」
「そ、そうなのか……」
「でも実は声かけて欲しいって女子の多い事! だって、藤木さん、男の俺から見てもイケメンすよ。背も高いし、出世頭だし、気が効くし」
「待て待て待て!」

僕は慌てて田代の顔の前で手を振った。

面と向かって褒め言葉を並べられるのは、悪口言われるより居心地が悪い。

「俺が遠慮なく喋ってんのが羨ましいって女子が多くて。藤木さんのお陰で美味しい思いさせてもらってます、って、別に手は出してないっすよ!? 単に女の子に囲まれておしゃべりできるのが楽しくて! なんかモテモテの気分!」
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