君と恋をしよう
──今の、聞こえてた!?

「田代先輩が全然戻ってこないから。まだ来てないのかと思った」

眩しい笑顔で言われた、幸い聞こえてなかったらしい。

華さんは小さな溜息を吐いて「運びましょ」と階段を上っていく。

「すみません」

田代が詫びた。

「あいつまだ怒ってたんだ。式の後もかなりご立腹だったんすよ、心配ないとは言ったんすけど。なんせ四次会でみんなして相当盛り上げてて」
「どんな盛り上げだよ」

流石に少し目つきが悪くなったのを自覚しながら聞いた。

「離婚してすぐ新卒の美女口説くなんて、さすがは藤木課長!って」
「それ、悪口レベルだろ」
「本当にすみません、華はそれを真に受けちゃって。周りも酔ってるもんだから、ちゃんと弁解してあげなくて。あ、聞いてますよ、萌絵ちゃんから一緒に駅まで帰りたいって言ったって」
「そうか」

ならいいか、と思ったら、

「いや、でも、ほら、その前後がさ。彼女がそう言い出すまでに、藤木さんがすんげー口説いてたかもとか思って」

何ー!?

「僕は一言も声をかけてない!」
「あー、すんません、すんません!」

確かに大人しそうな子がいるなと視界には納めていたけど!勿論、恋愛対象でなんか見ていなかったのに!

怒る僕の背を押して、田代が萌絵を部屋へ向かわせる、萌絵がいれば怒られないだろうとでも思ったんだろう。

開け放たれたドアから中を見た、畳の部屋だがワンルームと言うのだろうか、入ってすぐにキッチンがあり、奥まで部屋は丸見えだ。

ダンボールが積まれ、できる範囲の準備は確かに終わっていた。

僕は気分を変えるために深呼吸する。

「じゃあ、とりあえず大きな物をトラックに入れるか。華さんと萌絵は運べる物を僕の車に」

引っ越しの始まりだ。

「田代、下を持って」

僕は洗濯機を倒しながら言った。

「へーい」

田代は大人しく従って、それを軽トラックに運ぶ。
小さな冷蔵庫もその要領で運び出す。

「藤木さーん、ベッドは分解した方が良くないっすか?」
「うーん、道具が」

レンチもスパナもない、うちにならあるから持って来るか?いや……。

「重くはないし大きさも大丈夫だろう、このまま乗せてしまおう」
「へーい」

まずはマットレスから運ぶ。

「しっかり持て」
「持ってますって」
「予想以上に重いぞ」
「持ってますって。これで重いなんて言ってたら、萌絵ちゃん支えられませんよ?」
「うるさいっ」

あー、なんで、田代なんだ!

ベッドのフレームも運び、タンスを積んで、空きスペースに僕の車に乗り切らなかった荷物も乗せて、新居へ向かう。

「はぁい、待ってたわぁ!」
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