君と恋をしよう
ニジマスが群れになって泳いでいた、イクラに興味を示すのが見える。

「きゃー、藤木さーん!」

少し離れたところで釣っていた女の子三人のグループが大きな声を出す。

「助けて下さーいっ」

釣り竿を両手で握り締めたその先に、大きなニジマスが糸からぶら下がって元気に跳ねていた。

触れないのか、僕は仕方なく歩み寄って魚を掴んだ。

すぐさま男が二人、萌絵に近づくのが見えた。すぐに戻らねば。

「大きいのが釣れたね」
「はいー」

触れなくても嬉しいらしい。
魚を籠に放り込むと、

「中川」

手近にいた男を呼んだ。

「面倒見て上げて」

中川は二つ返事で来てくれた、女子は「えええっ」とか声を上げている、まあいいじゃないか。
僕が萌絵の所に戻ろうとすると、背後で中川の「いてっ」と言う声が聞こえたが、敢えて気にしない事にした。

それより、気を取られたのが。

萌絵も一匹釣り上げていた、慌てずそれを水から引き上げて、きちんと魚を掴んだ。

針を外そうとするが、かなり飲み込んでしまったようだ。

「あの」

男の一人に声をかけていた。

「針外し、お持ちですか?」

魚を傷付けずに針を外す道具だ。

男はそれを持っていた、笑顔で受け取ると、これまた慣れた手つきで魚の口に針外しを入れ、簡単に針を刺し外していた。

「釣りの経験があるの?」

僕が声をかけると、男達はそそくさといなくなる。

「うん、父の趣味が釣りで、子供の頃からよく行ってたの。海だったけど」
「そうか」

なんか少し意外だな。

「じゃあ僕の分も釣っておいてよ」

萌絵は元気に「うん」と返事をして、再び釣り糸を垂らした。

「でも、あの辺りの方が釣れそう」

視線で指したのは、そこよりも上流寄りの、ちょうど水が落ちてくる辺りだった、水飛沫が上がっている。

「向こう岸でも釣れるよ、行こうか」
「うんっ」

萌絵は竿を上げて、キョロキョロした。

「あっちの橋?」

上流にかかる木橋を指差した。

「石の上を渡ればいいよ」

隣の釣り堀とは、大きな石で仕切られている。等間隔で並んだそれは、形もそんなに歪ではない、危なくはないだろう。

僕は餌やカゴを持って歩きだす、萌絵も僕の分の竿も持ってついて来た。

「落ちてもこの陽気ならすぐに乾くよ」

まあ山の上だから、少し冷えるだろうが。

僕は石の一つに乗ってから、萌絵に手を差し出した。

「ほら、おいで」

萌絵は耳まで赤くなって、ほんの少しの間躊躇った。
やはり男とで繋ぐのは勇気がいるんだろう。

それでも竿を抱えるように持ち直すと、僕の手に自身の手を重ねた。

小さな細い手は、とても頼りない。

軽く引くと優しい力で握られる、僕もそっと握り返した。

石を移動しながら、手を引く、渡りきる頃には固く握り合っていた。
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