君と恋をしよう
秋からも、傍にいて
バーベキューの日、手を繋げたけれど。
結局その後、僕は彼女に触れられていない。
肩を抱こうとしても怯えた顔で後ずさる、ちょっとないよな。手は繋いでくれるが、それも指と指でだ。指先だけ絡めるような繋ぎ方、肌と肌が触れ合うのは苦手なようだ。
それでも逢瀬は重ねてくれる。
九月に入って、幾日か過ぎた頃。
「たっちゃん、あのね」
カフェに入ってしばらくすると、萌絵が意を決したように言う。
「うん?」
「私ね、もうすぐ誕生日なの」
「そっか、いつ?」
「九月二十六日」
「そっか、誕生日か……」
やっと23歳、か。
「お祝いしないとね」
「本当?」
萌絵は嬉しそうに微笑んだ。
「ちょっといいレストランにご飯でも食べに行こう。プレゼントは何か欲しいもの、ある?」
萌絵は少し考えて、首を横に振った。
「何も要らない。ご飯食べに行くならそれでいい」
「そっか」
萌絵らしい答えだな。
元嫁には何を上げたかな……鞄とか上げたな、28の誕生日には婚約指輪を渡したっけ……。
「……モノだと萌絵も困るだろうから、どっか思い出に残るところに行こうか?」
「思い出?」
「遊びに行こうか。遊園地とか?」
「遊園地?」
「いろいろあるけど……あ、ディズニーランドは?」
「い、行きたい!」
萌絵は珍しく声を上げた。
「私、修学旅行で行ったきり! あんまりゆっくりできなかったし……行きたい!」
「ん、じゃあディズニーランドね」
僕もいつ以来かな……元嫁と結婚前に行ったきりか。
「え、でもご飯に行くなら、それでいいのに……」
「欲しい物があればプレゼントするのに、ないからでしょ。プレゼントとケーキは別だよ」
言うと萌絵は嬉しそうに微笑んだ。
萌絵の誕生日は平日だったので、その晩はホテルのレストランで食事をした。
そして、その週の土曜日。
朝は七時に家を出た、車で萌絵をマンションの下まで迎えに行った。
萌絵にはリサーチをしておいてと言っておいたから、ちゃんと下調べをしてあって、乗りたいものベスト15を作っていた、それを嬉しそうに報告してくれる。全部乗れるといいね。
人混みでは萌絵は自然に手を繋いでくれた、君からならいいのかな。
並んでいる時なら、触れそうなまで接近してくる……僕となら平気なようだ。しかしこれだけの人混みだ、まったく男性と近付かずに済むはずがない。
並んでいてもお店にいても。
男性と触れ合いそうになると彼女は明らかに不安そうな顔になる、これは重症だな、よく今まで普通に過ごしてこれたものだ。