君と恋をしよう
◇◆◇
期待宣言が聞いたのか、なんだか萌絵の態度がちょっとよそよそしい。
折角キスまで持って行けたのに、させてくれなくなったのだ。
うむ、性急すぎたか。
でもさ、本当にお友達感覚で旅行に来られても。
「……ね……旅行先、決めたの?」
助手席の萌絵が不安げに聞いてきた。
あれから四度目のデート、金沢動物園へ向かう車の中だった。
「うん、宿も取れたよ」
言うと、萌絵の呼吸が止まったのが判る。
「……ど、どこ……?」
「内緒」
意地悪で言ってやった。
「当日のお楽しみだよ」
「え、でも……」
心構えが、とか思ってるんだろうな。
「うーん? 西の方、とは教えておいてあげようかな」
「西……? 言ってた神戸とか……?」
「そこまで遠くないよ、移動に時間使ったらもったいないから」
「ん……」
「電車で、ずっと萌絵と抱き合ったまま行けるなら行くけど」
萌絵が今度は息を呑んだ。
横目でちらりと見た、真っ赤になって僕を見つめている、全く、予想通りの反応で、思わず吹き出した。
「まあ手ぐらい握ってたいよねぇ?」
言ったが、萌絵は返事をしてくれなかった。
***
「コアラ、見たい」
萌絵が言うので、まずは一目散にコアラ館に向かった。
ガラス越しに見えるコアラは、ちょうどご飯タイムで、意外なほど元気に動いていた。
「かわいい」
萌絵がガラスに張り付く様に見ていた。
「萌絵の方がかわいいよ」
ベタな事を言っても、萌絵の反応は可愛い、本当?とでも言いたげに僕の顔を見上げる。
「コアラには触れないけど、萌絵には触れるしね」
萌絵が意味を理解しようとしている間に、僕は萌絵の髪を梳く様に撫でて、そのまま後頭部に手をかけて引き寄せた。
萌絵がその意味に気付いた時には遅い、僕は唇を盗み取っていた。
「……!」
抗議の声を上げようとした時には、僕は手を離して、更に一歩下がった。
萌絵は口を開けたけれど、諦めて再び窓に張り付いた、耳の先が赤いのが可愛いなあ。
***
さすがにずいぶん経ったのに、萌絵が動こうとしないのには困った。
コアラたちも満腹になったのか、お昼寝の時間だ。
「そろそろ行こうよ」
言ったけれど、萌絵は生返事だ。
「そんなにコアラが好きだったとは知らなかったよ」
「ん……あんまり見られないし」
「じゃあ、旅行先はオーストラリアにする? 夏のクリスマスを体験するのもいいよね」
「……旅行……!」
そこに反応する?
僕は思わず萌絵を抱き締めた、背後から、腰に腕を回して。
小さな体は僕の腕にすっぽりと収まった。
「コアラ、見に行く?」
「今……見てるし……!」
「あっち行ったら抱っこできるよ」
「で、でも、もう予約したんでしょ……!?」
「まだ二カ月以上あるんだから、キャンセルしてもいいよ」
「で、でも、移動時間ない方がいいって……!」
「ああ、そうだね、やっぱり国内にしよう。じゃあそういう事で」
僕は萌絵を抱き締めたまま、不格好に回れ右をした。
「他にも動物はいるよ、見に行こうよ」
そのまま二歩、三歩と歩き出すと、萌絵が「お願い、離して」と可愛く懇願した、できればまだぬくもりを感じていたかったけど、確かに歩きづらいので解放してあげた。
でも海外って言うのもアリだったなあ。萌絵が帰りたがってもそう簡単に帰れないもんね。まあ今度の旅行で進展がなければ、次は海外旅行を提案してみよう。