君と恋をしよう
それは彼女が僕を愛してくれているから? 子供が欲しいは言い訳で、とにかく体と体が繋がっていたいのか?
やはりそれは過度のストレスが原因?
いろいろ考えて、彼女の為にとは思うが、僕は彼女を抱けないようになっていた。
「ねえ……」
「ごめん、今日は疲れてる」
「もう三日も疲れてるじゃない!」
「ゆっくり休んだら元気になるよ」
「私が嫌いになった? 抱けなくなったの?」
「そんな事ない、愛してるよ」
でも何日経っても僕は元気になれなかった。
それでも仕方なく彼女を抱いた。
愛はない、なんか映像で見たことあるな……馬は人間にけしかけられて交尾してた、牛は張りぼてに乗っかって精子を搾取されてた、ああ、それと一緒だ、僕が必要とされてるのは精子だけか──。
それでも。
子供ができれば、また元の淳美に、キラキラ輝いて仕事に邁進する彼女が見られるかなと思っていた。
それでも。
子供はできない。
「なあ。子供が欲しくても二年できないと、不妊症って言うらしいぞ」
僕の言葉に、彼女は眉間に皺を寄せる。
「あなたがちゃんとしてくれたら、すぐにできるわよ」
「してるさ……」
語尾は小さくなった。
「とにかくさ、もしかしたら何か原因があるかも知れないじゃないか、一度病院に行ってみよう」
嫌がる彼女の不妊症専門のクリニックに連れて行った。
結果はお互いの体に異常はなかった。
「……じゃあ何でできないのよ」
彼女は怒りを抑えた声で言う。
「こればかりは、運、ですかね」
女医は優しく言った。
「過度のストレスが原因の場合もあります。環境の変化とか、お仕事が忙しいとか、お子さんが欲しいと熱望しすぎるとか」
聞きながら、僕はやっぱり、と思ったが声には出せなかった。
「もういいや、と思った瞬間に授かる場合もありますから」
「もういいやと思える年齢ではありません」
「そうですか……今後も相談にくるお時間が取れるなら通院していただいて一緒に頑張る事もできますよ? タイミング法とか、もっと言うと体外受精とか、いろいろやり方がありますから」
「問題がないのに、どうして治療を受けないといけないんですか?」
「淳美」
あまりの詰問口調に、思わず止めていた、医師は何も悪くない。
慣れっこなのか、医師はにこりと微笑んだ。
「妊娠を切望していらっしゃるカップルに、少しでもお役に立ちたいと思っているからです。もちろん100パーセントではないので、強くは勧めませんが……実は相性もあったりするんですよ、精子と卵子の……パートナーを変えた途端、妊娠したと言う例もありますけど」
「パートナーを……」
「誰でもいいと言う訳ではないですからね。その為の選択肢を広げたいと思っていますよ」
そう言ってパンフレットをくれた、『お母さんになる為に』と書いてあった。
でも、彼女は治療を希望しなかった。
「あと半年」
彼女は期限を作った。
「お互い体に問題がないなら、自然妊娠を望むわ。でもいつまでもダラダラしてても仕方ないと思うの。だから半年、頑張りましょ」
頑張る、か。
「半年経っても妊娠しなかったら?」
「離婚して」
はっきりと言われた。
「あのさ、僕は子供が欲しくて君と結婚した訳じゃ……!」
「私は子供が欲しいのよ!」
それは、母性、なのだろうか。
「死ぬまであなたと二人きりなのは、耐えきれない……!」
結婚したら子供ができると思っていた、それができないのは、いけない事なのか。