君と恋をしよう

◇◆◇

微かにベッドが揺れて、意識が浮上した。

ふと何処にいるのか考える。

不意に明かりが瞼を刺激した、ああ朝か、などとのんびり思った。
そして衣擦れの音、再び揺れるベッド、随分久々に感じる素肌に当たるシーツの感触と、心地良い怠さ。

近くに体温を感じた、滑らかな肌も。

急に思い出した、今どこにいて、誰といるのか。

目を開けると、萌絵がうつ伏せで枕に顔を埋めて僕を見ていた、目が合って微笑んだ。

「おはよ、たっちゃん」

その神々しいばかりの笑みに僕は見惚れた。

「やっぱりカーテン開けなければよかった、まだたっちゃんの寝顔、見ていたかったな」

可愛い言葉に思わず手を伸ばして頬を撫でていた。

「暗くてよく見えなかったから、明るくしたくて。電気よりは外の明るさの方がいいなと思って開けたんだけど」

萌絵の向こうの窓のカーテンが、片側だけ半分開いていた。
それで少しベッドが揺れたのか。

「好きな人の寝顔を見るのって、なんか幸せでいいなあと思って」

その言葉に僕ははっとした。

彼女から「好き」と言う言葉を聞いたのが初めてだったのだ。

僕が勝手に舞い上がって君を口説こうとしていたけど、それが全くの見当違いでなくて、僕は心底ほっとした。
一歩間違えれば、過去に君を傷つけた男と、本当になんら変わらないところだった。

「たっちゃん」

萌絵は嬉しそうに言って、僕の額に自分の額をこつんと押し当てた。

「私ね、昨夜たっちゃんの腕の中で思ったの。私、きっとたっちゃんに一目惚れしたのね」

萌絵の告白は少し意外だった。

「一目惚れ? 僕なんかに?」

萌絵はすぐ目の前で微笑んだ。

「だって、たっちゃんにだったら何されてもいいって思ったの。きっとそれって一番最初からだった。もし一番最初にお話しした時にキスされても、きっと嫌じゃなかったって思ったもの」

僕は思わず苦笑した。

「そんな事、もっと早く言ってよ」

僕、相当我慢してたんだけど。

萌絵はやけに大人びた、色っぽい笑みで返答に変えた。

「たっちゃんがいっぱい待ってくれてるの判った、それも嬉しかったの。私、大事にされてるって判ったもん」

萌絵の指がそっと僕の頬を撫でた、くすぐったくて嫌だったからすぐに掴まえて指先にキスをした。今度はその唇を撫でられた、余計にくすぐったい。

「たっちゃんには悪いけど、前の奥様に感謝したの、たっちゃんと別れてくれてありがとうって。でなかったら、私きっと男の人を好きになるって気持ちが一生理解できなかったと思う。男の人に触れて幸せを感じるなんて、きっと判らなかった」
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