君と恋をしよう
***
12月30日、青森の実家に帰る萌絵を、東京駅まで送った。
「気をつけて」
「うん」
発車のギリギリまで抱き合っていた、暫く会えなくなるのだから当然だ。なんたって僕達は交際を始めて間もないカップルだからね。
軽くキスを交わして彼女は新幹線に乗り込む、荷物は小さい、普段のデートのようだ、実家に着替えなどはあるらしい。
座ったのは窓際の席、隣は女性でよかった。
小さな窓の中の萌絵が手を振る、僕は小さく振り返した。隣の女性は僕達を見比べていた、そりゃ年の離れたカップルだけどさ、そんなにじろじろ見なくても。
新幹線が彼女を乗せて走り出す。
ああ、四泊五日、僕は1人淋しく過ごさなくては。
あ、僕は実家には元日に戻るだけのつもりだ。
夕飯がわりのビールと刺身を食べていると、スマホが鳴った、萌絵の着信音だ。
テレビを消して出た。
ん? ビデオ通話?
「無事に着いた?」
開口一番に聞いていた、時間的にはとっくに着いているだがそう聞いた。小さな画面の萌絵の顔が少し不安げに見えた。
『うん、あのね。その……』
外野から「早ぐしろ」と言う男性の声がした。
『あのね、うちの両親が、たっちゃんと話したいって』
「え?」
萌絵! 何を話した!? 僕は怒られるのか!? うちの可愛い娘におっさんが何をしたんだと!
動揺している間に、画面は壮年の男女に変わった、萌絵の両親だ。
「あ、あの!」
僕は慌てて居住まいを正した。
「申し訳ありません、僕のようなものが……!」
土下座で頭を何度も下げた、もっとも手に持ったスマホも一緒に動かしていたので、土下座になっていないな。
『ありがとうございます!』
男性の声がした。
「へ?」
意外な言葉に、不自然な姿勢で頭を上げていた。
『萌絵から聞きました、お付き合いしている男性がいると! 盆に帰ってきたときは、好きな人がいるとは言っておったのですが、いやいや、ありがとうございます、こんな癖のある娘を相手してくださって!』
「え、あ、いや、その、僕の方こそ……済みません、こんなおじさんで」