君と恋をしよう
『いやいや、とんでもね! この子は昔ちょっと……』

お父さんが言うと、お母さんが「あんた!」と容赦なく腕を叩いて諌めていた。

『いやいや、もしかしたら嫁さ行けないかもと諦めていたんですが……萌絵自身も男性なんかって感じでしたからねえ。その萌絵の心ば開いてくださる方がいたなんて、本当にありがたい限りです!』

いえ、ありがたいのは僕の方です。バツイチのおじさんを好きになってくれてありがとう。

『これからも末長くよろしくお願いします』

お父さんが頭を下げた、隣のお母さんも。

『今度是非うちにこいへえ』

お母さんが優しい声で言った。

『今度の夏さ、待っていら』
「はい、是非」

それまでお付き合いしてれば嬉しいけど。

外野から「もういいでしょ」と萌絵の声がした。画面が揺れて暗くなる、ガサガサと音がした後、薄暗い部屋の中に萌絵がいた。

『ごめんなさい。内緒、に、できなくて……恋人できたって言ったら、話させろって……あ、あの、軽井沢での話をしたわけじゃないのっ』

あー、つまり体の関係はバラしてないってことだね。でも中学生の交際じゃないんだから、多分そこも込みだよね。

「いいよ、びっくりはしたけど、確かに可愛い娘さんに手を出したんだ、こちらからご挨拶するべきだったよ」
『ううん、いいの。あのね、たっちゃん……』
「ん?」
『大好き』

そんな舞い上がるようなこと言わないでよ。

「僕もだよ」
『会いたい』
「うん、僕も」
『キス、したい』

あーもー、萌絵!!!

「……画面越しのキスじゃ淋しいから、逢えるまでお預けね」
『ん……』

残念そうに俯く萌絵、あー、今すぐ抱きしめたい!

「もう、戻った方が……」
『ん……多分、廊下にいる』

あはは、立ち聞きされてるんだ。

『たっちゃん』
「ん?」
『大好き』
「僕も大好きだよ」

スピーカーのままだろうから、この声も聞こえてるのかな?

『たっちゃん、逢いたい』
「うん、3日は東京駅まで迎えに行くから、辛抱して」
『うん』
「萌絵、愛してるよ」
『たっちゃん、逢いたいよ……』

微かに滲む涙声、なんだか、僕が戦争にでも行ってしまったみたいじゃないか。

本当に……翼があれば飛んで行きたいって、こう言う時に言うんだね。

今すぐ抱き締めたら、きっと君は見たことも無いような笑顔を見せてくれるだろうな。
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