君と恋をしよう
雪の華
『今、新幹線乗ったよ』
萌絵からのメッセージを受け取った、東京駅到着時刻は既に聞いていたが改めて書いてもある、16時過ぎの到着だ、ならば15時くらいにはこちらを出て、あちらで時間を潰して……などと思っていると。
見知らぬ番号から着信があった。
躊躇する、もしかしたら淳美ではないか、と思えた。
実は六月くらいまでは、度々電話があった。
とっくに電話帳から削除して画面に名前は出ないとは言え、流石に番号の羅列は覚えている、ひと目で淳美だと判り、出ないでいたが。
まさか、電話番号を変えてまで掛けてきているのかと邪推した、いや、先日仲が良さげな男がいた、今更僕に連絡などして来ないか?
僕は意を決して電話に出た。
「はい」
『あの。橋倉です』
男性の声、そして特徴のある姓に、疑うまでもなく萌絵の父親だと判った。
「あ、はい、お世話になっております」
なんと言っていいか判らず、なんか適当な事を言ってしまった。
『こちらこそ』
お父さんは笑いもせずに答えてくれた。
『たった今送り出しました、夕方には戻るかと』
お見送り後か、そうだよな、可愛い末娘だ。
「ありがとうございます、東京駅まで迎えに行きますので」
『はい、よろしぐお願いします』
今は声だけだ、それでもペコペコと頭を下げている様子が判った。
『あの、すみません、電話番号は萌絵から無理矢理聞き出しました、藤木さんには連絡しねぇからと』
「判りました、ご連絡があったことは、萌絵さんには言いません」
心配なんだろうなと判って、思わず微笑んでいた、娘はいつまでも可愛いのだろうなと思えて。
『あの』
言ってから黙り込んだ、微かなエンジン音が聞こえた、車の中なのだろう。
そして別人と判る鼻をすするような音は少し遠く感じた、助手席にお母さんがいるのだろうと想像できた。
『あの、事件の話は萌絵から聞いたと思います』
僕は静かに「はい」とだけ答えた。
『そんな事は公にせんでいいと何度も言ったのですが。事件を知る前はただただ男性が怖いと思っていたようです。でも事件を知ってからは、むしろそれを男性を退ける切り札の様にしていて。もっともそれで余計に傷付く事も何度もあったようですが、あの子の信念なんですかね、内緒にはできないと』
「大丈夫ですよ、僕も気にしてませんから」
僕が言うと、お父さんが何度も「うん、うん」と頷くのが聞こえた。