君と恋をしよう
僕を見ると微笑んだ、僕が知る、かつての淳美だった。
それでも僕の警戒心は解けない。
「どう言うつもりだ、わざわざ呼び出すなんて」
僕はドアを開けたまま聞いた。
しかも、彼女は今はこの会社の担当ではないはずだ、僕と結婚して担当を外れた、もっとも離婚してまたなったのかもしれないが確認する気にはなれなかった。
「ごめんなさい、普通に呼び出しても会ってくれないと思って。嫌でなければ今ここで外で会う約束して、帰ってもいいけど」
確かにそれよりはここで済ませたい、僕は中へ入り後ろ手にドアを閉めた。
「何の用だ?」
僕は立ったまま聞いた。
「謝りにきたの」
「謝りに?」
淳美は悲し気に微笑んだ、そんな表情に僕の頑なな心は簡単に崩れかかってしまう。
強がりで意地っ張りな彼女のそんな顔を見たのは、初めてかもしれない。
「座って。ちゃんと話がしたいの」
言われて僕は大人しく彼女の斜向かいの椅子に座った。
彼女は一度深呼吸してから話し出した。
「新年のご挨拶に来るのに、担当の子と代わってもらったの、今日なら仕事の話をする訳でもないし、少し失礼があっても笑って許してもらえるかなと思って……ごめんなさいね、新垣さんにも謝っておいて。呼んでくれなきゃ帰らないって言ったのよ──ふふ、いい部下を持ったわね」
新垣とは、さっき内線電話をくれた者だ。あの弱々しい声の様子からも相当粘られたのかもしれないと思えた、関係を知っているならきっと会わせられないとでも庇ってくれたのだろう。しかし一応は営業成績トップの女の押しの強さに、完全に押し負けたに違いない。
「本当にごめんなさい、私、どうかしてたわ」
彼女は俯きながら言った。
「あなたの子供が欲しかったのは事実、でも動機はかなり不純だった、それを詫びたいの」
「不純、て」
夫婦なら望んでしかるべきだろう。
彼女は溜息を吐く。
「チームマネージャーになった頃、あなたにプロポーズもされて、私の人生は順風満帆だと思ってた。前にも言ったでしょ、チームマネージャーになれば次はチーフマネージャー、そしてプロジェクトマネージャーになってと、出世街道真っしぐらよって」
ああ、覚えてる。僕がプロポーズした時、君は本当に嬉しそうに微笑んでいた。
彼女は仕事が好きだった、そして実績は残していた。社長も目指しちゃおうかなと冗談交じりに言っていた。
私生活も仕事もうまくいっていて、怖いくらい、とも。