君と恋をしよう
「寿退職も許してくれなかったからね、きっと私はこのまま出世して行くものだと思ってた。他の女性社員にも誇りです、男性優位の会社の前例作ってくださいって言われてね、私、その気になってた。でもね、式を挙げて間も無くよ、同僚がいきなりプロジェクトマネージャーになったの。誰が見てもサボりの多い、ダメ社員だった男子よ。みんなもびっくりしてて、最初の頃は女子社員も随分陰口を叩いていたけど、直に慣れるのね、判断は人任せ、ハンコ押すだけの彼を自然と受け入れて。私すら顎で使われて。惨めで情けなかった」
それがイライラし始めた時期と重なった。
「でもそんな理由で辞めるのはプライドが許さなかったの。出世しないと思ってた男に抜かされたから辞めます、じゃね。結婚では辞めさせてくれなかったけど、妊娠したら、って思った、辞めないでくれって言われても、絶対辞めてやるって心に誓ってた」
彼女の目に涙が浮かんだ、どうして、君は……。
「本当にごめんなさい、私のつまらない意地に付き合わせてしまって。あなたにいっぱい当たり散らしてた、あなたの心を踏みにじってた」
「淳美……」
ああ、せめて向かいに座ってやればよかった、斜向かいでは遠い。
「今更ながら後悔してる、逃がした魚じゃないけれど、あなたは精一杯私を受け入れようとしてくれていた。今更ながら、あなたがどれほど優しい人だったか思い知ってる。あなたが家を出て行ってから、本当に後悔しかなくて。でもまた変なプライドでね、素直に戻ってきてとも言えなくて。本当に、私……」
肩が震えている、こんなに弱々しい淳美を見たことがない。
「言って、くれたらよかったのに……そしたら僕だってもっと強く仕事は辞めてくれと言えた、君の会社に直談判だってした。でも君は仕事を好きだと思ってたから……」
彼女は何度も頷いた。
「好き、今でも好き、辞めなくて、よかった、とは思ってる」
「淳美……」
それは本心?
「今は出世とか気にしないで、とにかく仕事をしたいと思ってる。あの頃はとにかく『勝ち組』になりたかったのよ、仕事も結婚も出来て、幸せな私を見せつけたかったの、今なら判る、それがどんなに浅ましい事か。それをあなたに感じて欲しくなかった、女の私を見ていて欲しかった」
うん……いつからか、僕は君に『女』を感じなくなっていた、付き合い始めた頃とは、明らかに違う。
「本当にごめんなさい、もっとちゃん現実を受け入れたらよかった、あなたの優しさすら信じられなくなっていて……私、本当に後悔してるの」
遂に彼女の目から涙がこぼれた、もし、萌絵の存在がなければ、僕は抱き締めていただろう。
「──でも、君だってもう、次の人を見つけたじゃないか、彼と次の人生を……」
淳美はかぶりを振った。
「彼とは……まあ肉体関係はあるにはあるんだけど、結婚はどうかしら……彼ね、事故で男性としての機能を、すべて失っているの」
「……え!?」
彼女は目頭を拭いながら笑った。
それがイライラし始めた時期と重なった。
「でもそんな理由で辞めるのはプライドが許さなかったの。出世しないと思ってた男に抜かされたから辞めます、じゃね。結婚では辞めさせてくれなかったけど、妊娠したら、って思った、辞めないでくれって言われても、絶対辞めてやるって心に誓ってた」
彼女の目に涙が浮かんだ、どうして、君は……。
「本当にごめんなさい、私のつまらない意地に付き合わせてしまって。あなたにいっぱい当たり散らしてた、あなたの心を踏みにじってた」
「淳美……」
ああ、せめて向かいに座ってやればよかった、斜向かいでは遠い。
「今更ながら後悔してる、逃がした魚じゃないけれど、あなたは精一杯私を受け入れようとしてくれていた。今更ながら、あなたがどれほど優しい人だったか思い知ってる。あなたが家を出て行ってから、本当に後悔しかなくて。でもまた変なプライドでね、素直に戻ってきてとも言えなくて。本当に、私……」
肩が震えている、こんなに弱々しい淳美を見たことがない。
「言って、くれたらよかったのに……そしたら僕だってもっと強く仕事は辞めてくれと言えた、君の会社に直談判だってした。でも君は仕事を好きだと思ってたから……」
彼女は何度も頷いた。
「好き、今でも好き、辞めなくて、よかった、とは思ってる」
「淳美……」
それは本心?
「今は出世とか気にしないで、とにかく仕事をしたいと思ってる。あの頃はとにかく『勝ち組』になりたかったのよ、仕事も結婚も出来て、幸せな私を見せつけたかったの、今なら判る、それがどんなに浅ましい事か。それをあなたに感じて欲しくなかった、女の私を見ていて欲しかった」
うん……いつからか、僕は君に『女』を感じなくなっていた、付き合い始めた頃とは、明らかに違う。
「本当にごめんなさい、もっとちゃん現実を受け入れたらよかった、あなたの優しさすら信じられなくなっていて……私、本当に後悔してるの」
遂に彼女の目から涙がこぼれた、もし、萌絵の存在がなければ、僕は抱き締めていただろう。
「──でも、君だってもう、次の人を見つけたじゃないか、彼と次の人生を……」
淳美はかぶりを振った。
「彼とは……まあ肉体関係はあるにはあるんだけど、結婚はどうかしら……彼ね、事故で男性としての機能を、すべて失っているの」
「……え!?」
彼女は目頭を拭いながら笑った。