君と恋をしよう
「もしかしたら離婚するかもよ? そんな奴がハレの席にはいない方が」
「え? マジっすか? どうしたんですか?」
「うーん、やっぱすれ違い、かなあ」

心のな。

「えー、でもいっすよー、来てくださいよー。俺には関係ないっす、藤木さんに俺の嫁さん、見てもらいたいし」
「はは、大羽文具の受付嬢は美人揃いで有名だからな」

受付嬢など、何処も美人を揃えているがそこの社は「絶対顔で採ってるだろ」と言われるくらい有名だった。

「後日会わせてくれればいいよ。当日は電報送るよ」
「藤木さん! 俺の晴れ姿は当日しか見れないっす! お願いします、来てください!」

大きな声で言われて、さすがに困る。

「わ、判ったよ……行くよ」
「あざーっす!」

彼が新入社員の時、僕は指導者だった。元々人懐っこい性格だったようで、懐かれたのは事実だ。ここまで懐かれれば嫌な気はしない。


***


「確かに来週の式に今日行かないじゃドタキャンみたいで申し訳ないけど。変な厄がついても知らないぞ?」
「いいっすよおー、藤木さんには来てもらいたいっすー」
「行かなくても、ご祝儀ならちゃんと払うから」
「金の問題じゃないっす! 心の問題っす!」
「心かあ」
「俺は藤木さんに、俺の成長したとこ見てもらいたいっす!」
「成長は、仕事で見せてもらえれば十分だが」
「藤木さーん」

それは言うなと言わんばかりに抱き付かれた、俺は笑顔で溜息を吐く。

「まあ……確かにスピーチも頼まれてたもんな、俺がいなかったら5分くらいは間が持たなくなる?」
「はい!」
「じゃあ、披露宴だけな。教会での式と二次会はやめとくから」

思えば最初からもっとしっかり断るべきだったのだ、安請け合いしてしまった僕が悪い。
諦めて参列させてもらうことにした。


***


でも、行くつもりのなかった二次会に誘われた。

最近嫌なことが続いていたので、憂さも晴らしたかったんだろう、三次会まで楽しみ、いい感じで酔ったところで帰らせてもらう。
皆は若いな、四次会に行こうと盛り上がっている。

「僕は帰るよー」

多少呂律の回らない声で言った。

「えー、藤木さんー、夜はこれからですよー」

相手はもっと呂律が回ってない。

「いやいや、これからいろいろ金も出て行くからさ、本当にこの辺で」

そんな言葉に僕の会社の者達は笑う。

「仕方ないっすねー、離婚は結婚より体力使うとか言いますしー」
「解放してやりますよー」
「あ、こら、祝いの席でそんな事言うな」

僕達のやり取りを、新婦側の女性陣が聞いていた。

「離婚? されたんですか?」

背も高い綺麗な女性に言われる。

「そ、先月ね」
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