君と恋をしよう
酔ってる僕は素直に答えた。

「ほやほやですね」

別の女性が艶然と微笑んで言う。

「ほやほやって。それはやっぱりあいつらを言うんでしょう?」

新郎新婦を指差しながら言った。

「僕はほやほやより、燃え尽きたって方が正しいよ。燃えかすのおじさんはもうリタイア、後は若い者同士で楽しみな。あんまハメはずなよ」

そう言って手近な後輩に一万円を渡して手を振った、皆も「あざーす」「お気をつけてー」と送り出してくれる。

「私も帰ります」

新婦側の友人の一人が声を上げた。

その子は少し周りの子と違っていた。
美人揃いで有名な大羽文具の受付嬢にしては珍しく『可愛い』印象だ。ショートヘアの少し小柄な女の子は、まだ若かった。

「萌絵(もえ)ちゃん?」

背の高いスレンダー美女が言った。

「少し疲れました、もう失礼してもいいですか?」
「うん、いいけど。一人で帰れる?」

彼女は僕を見上げた。

「駅までご一緒してもいいですか?」

大きな瞳が印象的だった、キラキラ輝いていて、何か戸惑うように微かに左右に揺れる──可愛い子だな……。

「あ、ああ、勿論」

僕が返事をすると、彼女は皆に一礼した。背筋を伸ばして両手は臍の辺りで重ね、45度まで頭を下げ……その姿からも受付嬢だと判った。

「じゃあ行こうか」

僕が言うと、彼女は恥ずかし気に微笑んだ、こっち、と歩き出す僕の半歩後ろを歩いてついてくる。
駅までは10分程、他愛もない話をした。

「最寄駅は?」
「東神奈川でしょうか? 東横線の反町が一番近いんですけど」
「ああ、じゃあ横浜駅で乗り換えかな? 東神奈川からは歩ける距離?」
「はい」
「じゃあ同じ電車だ、僕は横浜駅までだから」

彼女は小さく頷いた。

「あまりこちらの電車とかには詳しくない?」
「はい、就職の為にこちらに来て、まだ2カ月にもなりません。電車も人も多くて、酔いそうです」
「そうか。故郷はどちら?」
「青森です」
「わ、遠いね」
「藤木、さんは、お近くなんですか?」
「うん、横浜の青葉区。内陸の方ね。今はホテル暮らしだけど、ちょっと前までは根岸にいたよ、工業地帯の方ね」

言ってはみたが土地感のない子に地名を言っても判らないだろう。

「大手企業に入れたなら、親御さんも安心だね」
「はい……でも、私は事務職を希望していたのに、何故か受付嬢で……無理ですって言ったんですけど」
「言ったんだ」
「だって……無理ですから……」

なんとなく、会社のやり方には従うものと思っていた僕はびっくりした。
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