君と恋をしよう
「できないことをやってみるものいいものだよ、それをやりたい人がいると思えばちょっと優越感じゃない」
「藤木さん、は、嫌なお仕事をしたこと、あるんですか?」
「ないな、どんな仕事も楽しい」
言うと、彼女の尊敬したような視線を感じた、いや、そんな偉そうなことではないんだが。
単にすごくやりたいことも無かったから、どんな仕事も喜んでやっただけで。
「あの……指輪……されてますよね」
彼女は遠慮がちに聞いた。
「ああ」
僕は左手を上げて答える。
「別に未練とかじゃなくてさ。単に汗で取れないだけ。涼しくなったら外れるよ」
僕が笑顔で言うと、彼女は微笑んだ。
「あの」
彼女はまた遠慮なくがちに言う。
「離婚理由なんて、聞いたら失礼ですか?」
「んー? 別にいいよ」
僕は酔っていたんだろう、そして僕は悪くないと言う主張もしたかったんだろう。かなり饒舌に喋っていた。それはホームに着いても続いていた。
「ったくねえ、僕は種付け馬じゃないんだよねえ。しようしよう言われてできるほど図太くもないし」
はたと気づいた、彼女の相槌が聞こえなくなっている。
「あ、ごめんね、これから結婚する人に、少しエグい話だったね?」
彼女は微笑んだ。
「いいえ、藤木さんも悩まれたんだなって判って嬉しいです」
え? そんな風に思ってもらえるとこ、あった? でも味方になってもらえるのは、やっぱり嬉しい。
「あの」
彼女はまた遠慮がちに言った。
「フリーになられたんなら、今度、二人きりで会ってもらえませんか?」
「──えっ!?」
「……嫌、ですか?」
「えっ、嫌じゃない、けど……っ! 言ったでしょ、僕は先月離婚ばっかで、嫁に用無し扱いされた様な男で、君より随分年上で……! なんで僕なんかと……!?」
彼女は淋しげに微笑んだ。
「私、男性が怖いんです」
その時僕達が乗るべき電車が入線してきた。
「こ、怖い?」
彼女は頷く。
「会社も、普通に事務職のつもりで入ったのに、何故か受付嬢で……あまりたくさんの人に会うの、苦手です」
「そう、なんだ……」
「でも今日あなたを見た時、何故か初めて心が浮き立つのを感じました。でも指輪をされていたから、もう誰かのものなんだなと思って……でも私でも男性をそんな風に感じるんだって、それだけでも収穫だったななんて思っていたんですけど」
それって、既に萎えた僕にオトコを感じなかったんですかねぇ?と思ったが聞けなかった。
僕達が乗るはずだった電車は走り出す。
「藤木さんの隣は安心します、もう少し、お話ししてみたいです」
「え、あの、いや、その……」
「藤木さん、は、嫌なお仕事をしたこと、あるんですか?」
「ないな、どんな仕事も楽しい」
言うと、彼女の尊敬したような視線を感じた、いや、そんな偉そうなことではないんだが。
単にすごくやりたいことも無かったから、どんな仕事も喜んでやっただけで。
「あの……指輪……されてますよね」
彼女は遠慮がちに聞いた。
「ああ」
僕は左手を上げて答える。
「別に未練とかじゃなくてさ。単に汗で取れないだけ。涼しくなったら外れるよ」
僕が笑顔で言うと、彼女は微笑んだ。
「あの」
彼女はまた遠慮なくがちに言う。
「離婚理由なんて、聞いたら失礼ですか?」
「んー? 別にいいよ」
僕は酔っていたんだろう、そして僕は悪くないと言う主張もしたかったんだろう。かなり饒舌に喋っていた。それはホームに着いても続いていた。
「ったくねえ、僕は種付け馬じゃないんだよねえ。しようしよう言われてできるほど図太くもないし」
はたと気づいた、彼女の相槌が聞こえなくなっている。
「あ、ごめんね、これから結婚する人に、少しエグい話だったね?」
彼女は微笑んだ。
「いいえ、藤木さんも悩まれたんだなって判って嬉しいです」
え? そんな風に思ってもらえるとこ、あった? でも味方になってもらえるのは、やっぱり嬉しい。
「あの」
彼女はまた遠慮がちに言った。
「フリーになられたんなら、今度、二人きりで会ってもらえませんか?」
「──えっ!?」
「……嫌、ですか?」
「えっ、嫌じゃない、けど……っ! 言ったでしょ、僕は先月離婚ばっかで、嫁に用無し扱いされた様な男で、君より随分年上で……! なんで僕なんかと……!?」
彼女は淋しげに微笑んだ。
「私、男性が怖いんです」
その時僕達が乗るべき電車が入線してきた。
「こ、怖い?」
彼女は頷く。
「会社も、普通に事務職のつもりで入ったのに、何故か受付嬢で……あまりたくさんの人に会うの、苦手です」
「そう、なんだ……」
「でも今日あなたを見た時、何故か初めて心が浮き立つのを感じました。でも指輪をされていたから、もう誰かのものなんだなと思って……でも私でも男性をそんな風に感じるんだって、それだけでも収穫だったななんて思っていたんですけど」
それって、既に萎えた僕にオトコを感じなかったんですかねぇ?と思ったが聞けなかった。
僕達が乗るはずだった電車は走り出す。
「藤木さんの隣は安心します、もう少し、お話ししてみたいです」
「え、あの、いや、その……」