だから何ですか?Ⅱ【Memory】
◇◇◇◇
いつもとなんら変わらないフロア。
各々自分の課せられた仕事に勤しんで、外出の予定がなければひたすらにPCと向き合うしゃんとした座り姿を保つ秘書課の女性陣。
そんな空間に突如電話が鳴りだす事だってなんら珍しくもない当たり前の事。
手の空いてる人間が率先して受話器に手を伸ばし、点滅しているボタンを押してから応答する。
「はい、菱塚広告社・秘書室、霧島でございます」
どうやら外線からのものであったそれには丁寧な口調で対応する秘書の一人。
相手が見えぬと言えどその口元には弧を描いて、聞き取りやすい早さと口調を心がけて応答し相手の反応を待っていれば。
『お忙しいところすみません。あの・・・亜豆お願いできますか?あっ、亜豆凛生。今日出社してます?』
器械越しに響いてくるのは愛想もよく受け答えも感じの良い若い男の物。
「申し訳ありません。ただいま亜豆は外出しておりまして、社に戻る時間は未定なのですが。お名前と連絡先を教えていただけましたら亜豆の方から折り返させますが。もしくは、伝言をお預かりしましょうか?」
『あー・・・そう・・ですか。いや、大丈夫です。また改めてかけ直します』
不在を告げれば返答に迷いながらも後で改めると返してくる相手。
それでも特別今のやり取りで不審なところはない。
秘書も男も当たり前の受け答えをし今まさに通話も終盤。
今にも向こうから断ち切られそうな通話に待ったをかけたのは、
「お名前の方を確認させていただいてもいいですか?」
それすらも仕事の上で当たり前の確認。
最低でも誰から電話があったかくらいは把握しておらねば戻ってきた姿に報告もままならない。
そんな確認の響きに、
『亜豆の恋人』
クスリ笑った声混じり。
その一言で通話は相手からプツリと切られた。