だから何ですか?Ⅱ【Memory】
「よく分からないですが・・・伊万里さんにとってはセンチメンタルになる様な思い出なんですね」
「まぁな。ちょっとした映画やドラマみたいな印象深い記憶っつーか」
もう二度と起きないような現実味のない時間だった。
人生の中の偶然の寄り道。
たまたま成り行きで踏み込んだ世界の居心地がよくて、嫌いになれなくて・・・、
「・・・渡しちゃうくらいだもんなぁ・・」
「・・・えっ?」
「いや、ジッポの話。・・・親父の形見っつーか、」
「っ・・・」
「形見って言うと大げさか。最後に貰った物だったんだけどさ」
「えっと・・・えっ?お父さん・・・亡くなられてるんですか?」
「ああ、俺が大学入学した直後くらいだったかな。交通事故ってやつ」
「・・・・・」
「あ、そう無言で落ち込むな~。今更仏壇前で家族も泣かねぇから」
珍しく気まずそうに押し黙った亜豆にハハッと笑って頭を軽く撫でて宥める。
別に今更悲観する内容じゃない。
よくある交通事故に不運にも自分の家族が巻き込まれた過去の話。
さらりと持ち出したというのに思いのほか黙ってしまった亜豆は未だに不動で、煙草を吸う事すら忘れている姿にはさすがに苦笑し覗き込んで様子伺い。
視界に捉えるのは瞬きすら忘れていそうな物思いにふける姿で、その意識を引き戻す様にそっと唇を重ねてすぐに離れた。
でも、効果は覿面。